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煉獄都市 プロローグ・闇に啼く生贄人形
薄暗い小部屋の中で、その少女は孤独な苦闘をひたすらに続けていた。
少女は一糸纏わぬ全裸で、両手両足を革手錠で束ね留められている。その惨めなスタイルのまま床に転がされ、しかし何とか前に進もうと、尺取虫のように身をくねらせているのだ。
歳は十六、七だろうか・・・まだ多分に幼さの残る顔つき、体つきが、縛められた少女をかえって艶めかしく見せている。
「うッ!・・・」
不意に呻き声を上げ、少女は裸身を竦ませた。ヒップをずり動かしたはずみに、またあの甘い衝撃が突き上げてきたのだ。
耳の奥がジーンと鳴り、我知らずに切なげな吐息が漏れる。身体の芯から熱いものが湧き出し、内股をヌルヌルと汚してゆくのが分かった。
(ああイヤ!・・・一体どうすればいいの?・・・)
誰か見ている者がいるわけでもないのに、羞恥で全身が熱くなり、涙があふれ出してくる。目の眩むようなその官能の味は、少女にとって、未だおぞましい禁忌の世界であるらしい。
・・・だがそれも無理はない。超一流の名門女子校に通い、極端なまでの無菌状態で育ってきた彼女は、ほんの半日ほど前まで、自慰すら知らない未通(おぼこ)娘だったのだから。
しかし今、彼女の局所は強く熱を帯び、淫らな汗を垂れ流しにしている。腰を少しでも大きく動かすと、濡れた柔らかな果肉が刺激され、目の前が真っ白になるようなエクスタシーが襲ってくるのだ。

(これ以上身体をおかしくされたら、本当に気まで狂ってしまう・・・)
そんな恐怖心が、胸の内に黒々と渦巻いている。・・・そう、彼女の身体は、彼女を捕らえ、ここに監禁した者たちによって、狂わされてしまったのだ。
・・・守ってきた純潔を無情に散らされ、媚薬によって初めて性の高みへと追い上げられ、あげくに・・・・・。
身の毛のよだつような記憶が蘇り、少女はシャギーに刈った短髪をサワサワと震わせた。
(何とかして逃げ出さなくては!・・・)
歯を食いしばり、下半身の疼きをこらえながら、少女はジリジリと床を這ってゆく。前方にはがっしりとした木製のドアがあり、そこまで辿り着こうとしているのだ。
恐らくドアには鍵がかかっているのだろうが、何とかこじ開けられないものか、試してみて損はないはずだ。そのためには、監視の目が無くなった今こそがチャンスだった。とにかく、もう一瞬でもここにはいたくない。
ようやくドアの前まで這い進み、少女は壁に肩をこすり付けるようにして立ち上がった。
背中に束ねられた手首を苦心して動かし、ドアノブをつかむ。施錠の有無を確かめようと手に力を込めた時・・・。
「あッ!・・・」
ドアが不意にこちらへ向かって開かれ、少女はたまらず前のめりに床へ倒れ込んだ。
「う・・・・」
膝をついたはずみで危うく気をやりそうになり、苦しげにギュッと眉根を寄せてから、おずおずと背後を振り返る。
・・・開かれたドアの前にはスラリとした人影が立ち、無言で少女を見下ろしていた。
背後から差し込む光のため、人物の表情は深くシルエットに沈んでいて判然としない。ただ分かるのは、その口元から洩れだしてくる忍び笑いが、底知れない邪(よこしま)な響きを帯びているということだけだ。
少女の背がブルッと震え、激しい恐怖の色が顔中を隈取った。・・・影となって立つその人物こそが、彼女をここに監禁し、心と身体をズタズタに嬲り苛んだ張本人だったからだ。

「・・・お願い・・・許して下さい・・・・」
か細い、ささやくような声で哀訴する少女を、人物は乱暴に引き起こし、仰向けに裏返すと、そのまま押さえ込むように覆いかぶさってきた。
「あッ、やッ!・・・ご、後生です・・・ひッ!・・・」
相手の指が、舌が、淫らに熱を持った性の急所を巧みに苛んでくるのを感じ、少女は何とか逃れようと身をもがくが、狂わされた肉体の方は、裏腹に喜悦の涙をあふれさせて屈辱的な呵責を受け入れてゆく。
必死に拒む声が、やがて打ち負かされたようなすすり泣きに変わる頃、たっぷりと露を溜めた肉果を割って柔軟な槍が突き入れられ、はちきれんばかりのボリュームでその秘奥を蹂躙し始めた!
「あーッ!!・・・・・」
切れ切れに尾を引く哀しい悲鳴が、狭く薄暗い室内を、さらにどす黒い絶望の色に染め上げていった・・・・。
少女は一糸纏わぬ全裸で、両手両足を革手錠で束ね留められている。その惨めなスタイルのまま床に転がされ、しかし何とか前に進もうと、尺取虫のように身をくねらせているのだ。
歳は十六、七だろうか・・・まだ多分に幼さの残る顔つき、体つきが、縛められた少女をかえって艶めかしく見せている。
「うッ!・・・」
不意に呻き声を上げ、少女は裸身を竦ませた。ヒップをずり動かしたはずみに、またあの甘い衝撃が突き上げてきたのだ。
耳の奥がジーンと鳴り、我知らずに切なげな吐息が漏れる。身体の芯から熱いものが湧き出し、内股をヌルヌルと汚してゆくのが分かった。
(ああイヤ!・・・一体どうすればいいの?・・・)
誰か見ている者がいるわけでもないのに、羞恥で全身が熱くなり、涙があふれ出してくる。目の眩むようなその官能の味は、少女にとって、未だおぞましい禁忌の世界であるらしい。
・・・だがそれも無理はない。超一流の名門女子校に通い、極端なまでの無菌状態で育ってきた彼女は、ほんの半日ほど前まで、自慰すら知らない未通(おぼこ)娘だったのだから。
しかし今、彼女の局所は強く熱を帯び、淫らな汗を垂れ流しにしている。腰を少しでも大きく動かすと、濡れた柔らかな果肉が刺激され、目の前が真っ白になるようなエクスタシーが襲ってくるのだ。

(これ以上身体をおかしくされたら、本当に気まで狂ってしまう・・・)
そんな恐怖心が、胸の内に黒々と渦巻いている。・・・そう、彼女の身体は、彼女を捕らえ、ここに監禁した者たちによって、狂わされてしまったのだ。
・・・守ってきた純潔を無情に散らされ、媚薬によって初めて性の高みへと追い上げられ、あげくに・・・・・。
身の毛のよだつような記憶が蘇り、少女はシャギーに刈った短髪をサワサワと震わせた。
(何とかして逃げ出さなくては!・・・)
歯を食いしばり、下半身の疼きをこらえながら、少女はジリジリと床を這ってゆく。前方にはがっしりとした木製のドアがあり、そこまで辿り着こうとしているのだ。
恐らくドアには鍵がかかっているのだろうが、何とかこじ開けられないものか、試してみて損はないはずだ。そのためには、監視の目が無くなった今こそがチャンスだった。とにかく、もう一瞬でもここにはいたくない。
ようやくドアの前まで這い進み、少女は壁に肩をこすり付けるようにして立ち上がった。
背中に束ねられた手首を苦心して動かし、ドアノブをつかむ。施錠の有無を確かめようと手に力を込めた時・・・。
「あッ!・・・」
ドアが不意にこちらへ向かって開かれ、少女はたまらず前のめりに床へ倒れ込んだ。
「う・・・・」
膝をついたはずみで危うく気をやりそうになり、苦しげにギュッと眉根を寄せてから、おずおずと背後を振り返る。
・・・開かれたドアの前にはスラリとした人影が立ち、無言で少女を見下ろしていた。
背後から差し込む光のため、人物の表情は深くシルエットに沈んでいて判然としない。ただ分かるのは、その口元から洩れだしてくる忍び笑いが、底知れない邪(よこしま)な響きを帯びているということだけだ。
少女の背がブルッと震え、激しい恐怖の色が顔中を隈取った。・・・影となって立つその人物こそが、彼女をここに監禁し、心と身体をズタズタに嬲り苛んだ張本人だったからだ。

「・・・お願い・・・許して下さい・・・・」
か細い、ささやくような声で哀訴する少女を、人物は乱暴に引き起こし、仰向けに裏返すと、そのまま押さえ込むように覆いかぶさってきた。
「あッ、やッ!・・・ご、後生です・・・ひッ!・・・」
相手の指が、舌が、淫らに熱を持った性の急所を巧みに苛んでくるのを感じ、少女は何とか逃れようと身をもがくが、狂わされた肉体の方は、裏腹に喜悦の涙をあふれさせて屈辱的な呵責を受け入れてゆく。
必死に拒む声が、やがて打ち負かされたようなすすり泣きに変わる頃、たっぷりと露を溜めた肉果を割って柔軟な槍が突き入れられ、はちきれんばかりのボリュームでその秘奥を蹂躙し始めた!
「あーッ!!・・・・・」
切れ切れに尾を引く哀しい悲鳴が、狭く薄暗い室内を、さらにどす黒い絶望の色に染め上げていった・・・・。
煉獄都市 第1章 悪意のるつぼ・メガトキオ(1)
「たッ、助けて下さいッ!」
午前十時を少しまわった頃に飛び込んできた初老の男は、開口一番そう喚いて辺りを見回したが、室内の様子に気が付くと、怪訝そうな表情になって目をしばたたいた。
そこは2LDKのマンションを利用した小綺麗なオフィスで、男のいるリビングは、エントランスから真っ直ぐ奥に入った所に位置している。
「・・・あの、ここは・・・S・T(サルベージ・トレーディング・救出業務、及び業者のこと)を請け負ってくださる、早坂探偵事務所では?・・・」
訝しげに男がそう尋ねたのは、そこが「探偵事務所」にはおよそ似つかわしくない風情と思えたからだろう。
ガランとした室内には簡素な応接セットがおざなりに配されているだけで、他には書類戸棚はおろかデスクすら無い。
部屋の南側一面はバルコニーに続くガラス戸になっており、入射する午前の陽光が、それを背にして立つ人物の身体に濃い陰影を作っていた。
「ここは確かに早坂探偵事務所ですよ。ようこそいらっしゃいました。何かお困りですか?・・・」
柔らかな声音で不意の客に応じたその人物こそが、男の感じた違和感の、真の大本なのかもしれなかった。
なぜなら彼女・・・そう、その人物は女性で、しかもどう見ても未成年としか思えない、いたいけな少女だったからである。
長めのページボーイにカットされた、艶のある漆黒の髪、化粧気のない健康的な肌の色、意志の強そうな太くハッキリとした眉、綺麗なアーモンド型の眼と黒い瞳、形の良い唇のすぐ右下に、小さく打たれたほくろ・・・。
そんな顔の造作が渾然となって、少女は女性としての色気を存分に発散させていたが、軽い内巻きの前髪をふわりとまとめた白いヘアバンドが、彼女の印象を崩れたところのない清楚なものにしていた。

「・・・ああ・・・そう、困っている。緊急にS・Tをお願いしたいんです。早坂先生にお取り次ぎを願いたいんですが・・・」
どぎまぎと言葉を継ぐ男に、少女は微苦笑を浮かべて見せて、
「このオフィスは私が借りているんです。私が早坂です。ここのオーナーなんです」
「あなたが?」
男は目を丸くして、未だあどけなさの残る少女の美しい顔を凝視した。
「あなたがやっているんですか?・・・その・・・S・Tを?」
「こんな小娘が、と御不審なのは良く分かります。だけど私は、過去二年間に17件の救出業務を手がけ、しくじったことは一度もありません」
言いながら少女は、男にソファに腰を降ろすよう勧め、ニッコリと微笑んだ。
「どうか落ち着いて、事情をお話し下さい。必ずお力になれると思いますよ・・・」
少女の名は早坂恵麻里(えまり)。早世した父の後を襲って危険な探偵業にいそしむ、18才の乙女であった。
午前十時を少しまわった頃に飛び込んできた初老の男は、開口一番そう喚いて辺りを見回したが、室内の様子に気が付くと、怪訝そうな表情になって目をしばたたいた。
そこは2LDKのマンションを利用した小綺麗なオフィスで、男のいるリビングは、エントランスから真っ直ぐ奥に入った所に位置している。
「・・・あの、ここは・・・S・T(サルベージ・トレーディング・救出業務、及び業者のこと)を請け負ってくださる、早坂探偵事務所では?・・・」
訝しげに男がそう尋ねたのは、そこが「探偵事務所」にはおよそ似つかわしくない風情と思えたからだろう。
ガランとした室内には簡素な応接セットがおざなりに配されているだけで、他には書類戸棚はおろかデスクすら無い。
部屋の南側一面はバルコニーに続くガラス戸になっており、入射する午前の陽光が、それを背にして立つ人物の身体に濃い陰影を作っていた。
「ここは確かに早坂探偵事務所ですよ。ようこそいらっしゃいました。何かお困りですか?・・・」
柔らかな声音で不意の客に応じたその人物こそが、男の感じた違和感の、真の大本なのかもしれなかった。
なぜなら彼女・・・そう、その人物は女性で、しかもどう見ても未成年としか思えない、いたいけな少女だったからである。
長めのページボーイにカットされた、艶のある漆黒の髪、化粧気のない健康的な肌の色、意志の強そうな太くハッキリとした眉、綺麗なアーモンド型の眼と黒い瞳、形の良い唇のすぐ右下に、小さく打たれたほくろ・・・。
そんな顔の造作が渾然となって、少女は女性としての色気を存分に発散させていたが、軽い内巻きの前髪をふわりとまとめた白いヘアバンドが、彼女の印象を崩れたところのない清楚なものにしていた。

「・・・ああ・・・そう、困っている。緊急にS・Tをお願いしたいんです。早坂先生にお取り次ぎを願いたいんですが・・・」
どぎまぎと言葉を継ぐ男に、少女は微苦笑を浮かべて見せて、
「このオフィスは私が借りているんです。私が早坂です。ここのオーナーなんです」
「あなたが?」
男は目を丸くして、未だあどけなさの残る少女の美しい顔を凝視した。
「あなたがやっているんですか?・・・その・・・S・Tを?」
「こんな小娘が、と御不審なのは良く分かります。だけど私は、過去二年間に17件の救出業務を手がけ、しくじったことは一度もありません」
言いながら少女は、男にソファに腰を降ろすよう勧め、ニッコリと微笑んだ。
「どうか落ち着いて、事情をお話し下さい。必ずお力になれると思いますよ・・・」
少女の名は早坂恵麻里(えまり)。早世した父の後を襲って危険な探偵業にいそしむ、18才の乙女であった。
煉獄都市 第1章 悪意のるつぼ・メガトキオ(2)
地球が新しい世紀を迎えてから、既に40年近くが過ぎていた。
有名な予言にあったような世界の破滅こそ起こらなかったものの、かといって無論、新世紀が光に満ちたユートピアという訳ではなかった。むしろ、混乱と退廃が世界中を覆う、陰鬱な世紀といえた。
東洋の小さな島国・・・新世紀の日本においても、人々の心は鉛色に澱んでいた。
その大きな原因の一つは、何と言っても、2022年にこの国を襲った巨大な地震であった。
東海全域から関東にかけて破滅的な打撃をもたらした大地震・・・それは後に「太平洋大震災」と呼ばれることになる未曾有の大災害だった。
首都東京は壊滅を免れたものの、被害の大きかった周辺各県からは大量の被災者や失業者が流れ込み、都心周辺は急速にスラム化していった。
かつて栄華を誇った者ほど、一度落ちぶれれば、再び立ち上がる気力を奮い起こせないことがある。「メガトキオ」と名を変えた震災後の東京が、まさにそれであった。
復興への熱意が一向に高まらないまま、人々は無気力に日々を生きた。そしてその無気力を吸い上げて養分とするかのように、様々な犯罪組織が縦横に根を張った。
怪しげな風俗店が軒を連ねる旧都心部では、麻薬や非合法銃器が当たり前に取引され、白昼堂々の殺人や誘拐も、もはや日常的な景色となりつつある。
メガトキオはかつてのロスアンゼルス以上に、闇の力が支配する悪意の密林と化していたのである・・・。
有名な予言にあったような世界の破滅こそ起こらなかったものの、かといって無論、新世紀が光に満ちたユートピアという訳ではなかった。むしろ、混乱と退廃が世界中を覆う、陰鬱な世紀といえた。
東洋の小さな島国・・・新世紀の日本においても、人々の心は鉛色に澱んでいた。
その大きな原因の一つは、何と言っても、2022年にこの国を襲った巨大な地震であった。
東海全域から関東にかけて破滅的な打撃をもたらした大地震・・・それは後に「太平洋大震災」と呼ばれることになる未曾有の大災害だった。
首都東京は壊滅を免れたものの、被害の大きかった周辺各県からは大量の被災者や失業者が流れ込み、都心周辺は急速にスラム化していった。
かつて栄華を誇った者ほど、一度落ちぶれれば、再び立ち上がる気力を奮い起こせないことがある。「メガトキオ」と名を変えた震災後の東京が、まさにそれであった。
復興への熱意が一向に高まらないまま、人々は無気力に日々を生きた。そしてその無気力を吸い上げて養分とするかのように、様々な犯罪組織が縦横に根を張った。
怪しげな風俗店が軒を連ねる旧都心部では、麻薬や非合法銃器が当たり前に取引され、白昼堂々の殺人や誘拐も、もはや日常的な景色となりつつある。
メガトキオはかつてのロスアンゼルス以上に、闇の力が支配する悪意の密林と化していたのである・・・。
煉獄都市 第1章 悪意のるつぼ・メガトキオ(3)
「久しぶりのS・T依頼らしいですね・・・」
一通りの事情を説明して男が帰ると、通路脇のコンピュータールームからパートナーの静音・ブルックスが顔を出して恵麻里に声をかけた。
彼女も恵麻里と同じ年頃で、下がり気味の大きな目に縁なしの眼鏡をかけた、物静かな、草花のような印象の美少女である。そしてその印象通り、人間よりもデジタル機器と向き合って、それを駆使することの方を得意としていた。

「そうね、ここ三ヶ月はありきたりの身上調査ばっかりだったものね」
と恵麻里は応じながらソファの上で身体を伸ばし、
「これ以上間が空くと腕がなまっちゃうから、ちょうど良かったわ。それにS・Tは、報酬だって格別だしね」
「さらわれたのは、さっきの男性の娘さんなんですか?」
「そうらしいわ。16才だって言ってたから、ちょうど『さらわれ頃』ね」
・・・そう、救出業務とは、主に女性・・・それも若い女性を、囚われている犯罪組織から救い出す仕事のことなのだ。
人々の下卑た欲望に歯止めの効かなくなったメガトキオでは、犯罪者達のやり口も非道を極めていたが、中でもここ十年ほどで急速に増加した犯罪に、犯罪者達が自ら戯れに「サマン(召喚)」と呼んでいる誘拐行為がある。
若い女性(男性も稀に被害に遭うが)を無理矢理拐かして、会員制の地下風俗店や不道徳な個人依頼主に売り飛ばす、乱暴な商売のことだ。
前世紀のこの国にも全く無かったとは言えない犯罪だが、それが組織的、しかも日常的に行われていることが、現メガトキオの病の根深さを示していた。
そしてこの卑劣な犯罪に対し、公の治安維持装置・・・すなわち警察は、全く無力、というよりは、見て見ぬふりを決め込んでいた。
2030年から運営が民間に委託され、PPO(治安機構)と名を変えた警察は、志気やモラルの低下が著しく、特にこのメガトキオでは犯罪組織と根深く癒着して、街に無法をはびこらせてきたのだ。
市民たちは、いざ犯罪に巻き込まれても警察の助けを期待できず、といって素人が独力で犯罪組織に抵抗できるわけがない。だからこそ、恵麻里たち民間の救出業者に多くの需要があるのであった。
「さらわれたのはこの娘よ。昨日の夕方から行方が分からないらしいわ・・・」
静音と共にコンピュータールームへ入り、依頼主の男から受け取った情報カードをスロットに押し込みながら、恵麻里は言った。
机の上に据えられた平たいデジタル情報端末が自動的に起動して、その上の空間に緑色に光る表示用の立方体を形成する。
その中に、高校の制服らしいベージュのブレザーを着た短髪の少女が3D画像で浮かび、二人に向かって軽く会釈をして見せた。

「とても可愛らしい娘ですね・・・」
と静音は立体像に軽くふれ、同時に現れた、少女に対する各種の情報に素早く目を走らせる。
「遠山深雪(みゆき)ちゃん、か・・・。高校一年生にしてはスタイルも素晴らしいわ。狙われたのも無理はないですね」
「あのお父様が、何とか取り戻したい気持ちも良く分かるわ。きっと溺愛してるのね」
恵麻里は狼狽えきった男の様子を思い出しながら言ったが、ふと気がついた顔になって、
「・・・この制服は、三枝(さえぐさ)のおじさまのところの瑠璃花(るりか)ちゃんと同じだわ。・・・そうか、蓬莱女学院の生徒だったのね・・・」
三枝とは、病死した恵麻里の父の友人だった同業者で、現在の恵麻里にとっては後見人とも頼る恩人である。その一人娘、瑠璃花が通う蓬莱女学院は、徹底した淑女教育で知られる名門校であり、深雪という娘もどうやらそこに通学しているらしい。
「でも、どうしてさらわれたことが分かったんですか?行方不明といっても、単なる家出かもしれないのに・・・」
怪訝そうに言う静音に、恵麻里は苦笑して手を振って見せ、
「まあ、いつものパターンよ。心配性の父親は、この娘に緊急用のSOSコール装置を携帯させていて、彼女はそれで助けを求めてきたの。もっとも発信は一度きりで、すぐに切れてしまったから、囚われた場所の特定も出来なかったらしいけど。・・・恐らく誘拐犯たちに装置を取り上げられたんじゃないかしら」
「それじゃあ手がかりは・・・」
「もちろん皆無じゃないわ。失踪した当日の足どりは大体つかめているし・・・・ああそうそう、情報バンクでこの組織の事を検索してちょうだい」
恵麻里は事件の要点をメモっておいたデジタルボードを取り出して静音に示し、そこに書かれている、とある組織名を、自ら確認するように読み上げた。
「新世界準備会・サンクチュアリ・・・」
失踪した少女が、最後に其処に行くと言い残して出かけたらしい場所・・・・そのいかにも怪しげで大仰な組織名に、恵麻里はかすかに聞き覚えがあった。
(・・・だけど犯罪組織としてではないわ・・・どこで聞いたのだっけ?・・・・いずれにしても、彼女の失踪との関連を調べる必要があるわね・・・)
思案するときのクセで、唇の下のほくろを撫で回す恵麻里の横で、静音は手際よく検索作業を続ける。緑色のキューブの中が、みるみる「新世界準備会」なる組織の情報で埋め尽くされていった・・・。
一通りの事情を説明して男が帰ると、通路脇のコンピュータールームからパートナーの静音・ブルックスが顔を出して恵麻里に声をかけた。
彼女も恵麻里と同じ年頃で、下がり気味の大きな目に縁なしの眼鏡をかけた、物静かな、草花のような印象の美少女である。そしてその印象通り、人間よりもデジタル機器と向き合って、それを駆使することの方を得意としていた。

「そうね、ここ三ヶ月はありきたりの身上調査ばっかりだったものね」
と恵麻里は応じながらソファの上で身体を伸ばし、
「これ以上間が空くと腕がなまっちゃうから、ちょうど良かったわ。それにS・Tは、報酬だって格別だしね」
「さらわれたのは、さっきの男性の娘さんなんですか?」
「そうらしいわ。16才だって言ってたから、ちょうど『さらわれ頃』ね」
・・・そう、救出業務とは、主に女性・・・それも若い女性を、囚われている犯罪組織から救い出す仕事のことなのだ。
人々の下卑た欲望に歯止めの効かなくなったメガトキオでは、犯罪者達のやり口も非道を極めていたが、中でもここ十年ほどで急速に増加した犯罪に、犯罪者達が自ら戯れに「サマン(召喚)」と呼んでいる誘拐行為がある。
若い女性(男性も稀に被害に遭うが)を無理矢理拐かして、会員制の地下風俗店や不道徳な個人依頼主に売り飛ばす、乱暴な商売のことだ。
前世紀のこの国にも全く無かったとは言えない犯罪だが、それが組織的、しかも日常的に行われていることが、現メガトキオの病の根深さを示していた。
そしてこの卑劣な犯罪に対し、公の治安維持装置・・・すなわち警察は、全く無力、というよりは、見て見ぬふりを決め込んでいた。
2030年から運営が民間に委託され、PPO(治安機構)と名を変えた警察は、志気やモラルの低下が著しく、特にこのメガトキオでは犯罪組織と根深く癒着して、街に無法をはびこらせてきたのだ。
市民たちは、いざ犯罪に巻き込まれても警察の助けを期待できず、といって素人が独力で犯罪組織に抵抗できるわけがない。だからこそ、恵麻里たち民間の救出業者に多くの需要があるのであった。
「さらわれたのはこの娘よ。昨日の夕方から行方が分からないらしいわ・・・」
静音と共にコンピュータールームへ入り、依頼主の男から受け取った情報カードをスロットに押し込みながら、恵麻里は言った。
机の上に据えられた平たいデジタル情報端末が自動的に起動して、その上の空間に緑色に光る表示用の立方体を形成する。
その中に、高校の制服らしいベージュのブレザーを着た短髪の少女が3D画像で浮かび、二人に向かって軽く会釈をして見せた。

「とても可愛らしい娘ですね・・・」
と静音は立体像に軽くふれ、同時に現れた、少女に対する各種の情報に素早く目を走らせる。
「遠山深雪(みゆき)ちゃん、か・・・。高校一年生にしてはスタイルも素晴らしいわ。狙われたのも無理はないですね」
「あのお父様が、何とか取り戻したい気持ちも良く分かるわ。きっと溺愛してるのね」
恵麻里は狼狽えきった男の様子を思い出しながら言ったが、ふと気がついた顔になって、
「・・・この制服は、三枝(さえぐさ)のおじさまのところの瑠璃花(るりか)ちゃんと同じだわ。・・・そうか、蓬莱女学院の生徒だったのね・・・」
三枝とは、病死した恵麻里の父の友人だった同業者で、現在の恵麻里にとっては後見人とも頼る恩人である。その一人娘、瑠璃花が通う蓬莱女学院は、徹底した淑女教育で知られる名門校であり、深雪という娘もどうやらそこに通学しているらしい。
「でも、どうしてさらわれたことが分かったんですか?行方不明といっても、単なる家出かもしれないのに・・・」
怪訝そうに言う静音に、恵麻里は苦笑して手を振って見せ、
「まあ、いつものパターンよ。心配性の父親は、この娘に緊急用のSOSコール装置を携帯させていて、彼女はそれで助けを求めてきたの。もっとも発信は一度きりで、すぐに切れてしまったから、囚われた場所の特定も出来なかったらしいけど。・・・恐らく誘拐犯たちに装置を取り上げられたんじゃないかしら」
「それじゃあ手がかりは・・・」
「もちろん皆無じゃないわ。失踪した当日の足どりは大体つかめているし・・・・ああそうそう、情報バンクでこの組織の事を検索してちょうだい」
恵麻里は事件の要点をメモっておいたデジタルボードを取り出して静音に示し、そこに書かれている、とある組織名を、自ら確認するように読み上げた。
「新世界準備会・サンクチュアリ・・・」
失踪した少女が、最後に其処に行くと言い残して出かけたらしい場所・・・・そのいかにも怪しげで大仰な組織名に、恵麻里はかすかに聞き覚えがあった。
(・・・だけど犯罪組織としてではないわ・・・どこで聞いたのだっけ?・・・・いずれにしても、彼女の失踪との関連を調べる必要があるわね・・・)
思案するときのクセで、唇の下のほくろを撫で回す恵麻里の横で、静音は手際よく検索作業を続ける。緑色のキューブの中が、みるみる「新世界準備会」なる組織の情報で埋め尽くされていった・・・。