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奈落の森の聖姉妹 第1章 伝説の森の悪魔(1)
その若いエルフ(亜人間)の女は、何処ともしれぬ薄暗い穴ぐらの中に、無惨な姿で囚われていた。
全裸で、両手を後ろ手に縛られ、首には犬などのつける緑色の首輪が、まるでアクセサリーのように巻かれている。
手首を縛め(いましめ)ているのは、何か動物の組織を編んだようなグロテスクな縄様のもので、その同じ素材が首輪からも上に伸びて、ややゆとりをもたせて天井の金具に結ばれている。
輝くような銀色の髪、同じく銀色の瞳、エルフ族特有の、長く尖った両耳、すっきりと形の良い鼻と唇・・・。
女の美しさは申し分無かったが、そのあられもない姿とひどく気怠げな表情が、女の印象をくずれた、淫らなものにしていた。
「うぅ・・・ふぅ・・・」
かすかに呻いた口の端から驚くほど多量の涎が溢れ出て、形良く盛り上がった女の胸を濡らしてゆく。
その視線は焦点を結んでおらず、どうやら彼女はほとんど正気を失っているらしい。
(・・・ここは何処だろう?どうして私は、ここにいるのだっけ?・・・)
霞がかかったようにハッキリしない頭の中で、彼女は独りごちる。
辺りに見えるのはじめじめと湿気を含み、冷たく脆そうな泥質の岩肌。そこを浅く穿って立て灯された、蝋燭のわずかな明かりだけである。
こんな所で、なぜ自分は家畜にも劣る扱いを受け、浅ましい姿をさらしているのか。
(どうして?・・・何も分からない・・・。そもそも、この私はどこの誰だったろう?・・・ああ何も思い出せない・・・)
おぼろげながら、自分には何か大切な使命があったような気がする。そして本来の自分は、華やかな栄光の中で、多くの人々に畏敬をもって迎えられていたような気も・・・。
だがそれは、そんな気がするだけだ。
確かなことは何も思い出せないし、特に思い出したくもない。
昼も夜も定かでないこの闇の牢獄で不自由に繋がれ飼われているというのも、今の彼女にはそこそこに気楽で不快ではない。
それに、こうしておとなしく夢幻をすごしていれば、時折何にも代えがたいめくるめくような至福が与えられるのだ。
それは・・・。
と、その時、彼女を取り巻く闇の一部がかすかに動き、そこから白い人の手がスーッと突き出されてきた。
手は粗末な木製の椀を持っており、中には何か透明な粘い液体が、七分目ほど注がれている。その液体こそ、彼女が夢にうつつに待ちこがれた、素晴らしい至福の源だった。
「うッ、うッううーッ!」
ようやく訪れたご馳走に我を忘れ、女は獣のように浅ましく鼻を鳴らして椀にむしゃぶりついた。
ずずっ、ずずーっ。
下品な音を立て、中の液体を無我夢中ですすり込む。
白い手は注意深く椀を傾けて彼女が餌をむさぼるのを助けていたが、やがてそれが空になると、高く持ち上げて「もうおしまい」というようにヒラヒラと振って見せた。
「・・・・・・」
口元から顎の下まで、呑み込みそこねた液体とよだれでベトベトにして、女は再び岩肌に身をもたせかけると満足げに目をつむる。
程なくして、その全身に変化が現れた。
「んん・・・んフうッ!・・・」
豊かな両の乳房がブルブルと震えながらさらに大きく張り、固く尖りだした乳首を頂点として、細かな汗の粒が一面に浮いてくる。
「んッ、んッ・・・」
汗はやがて全身に吹き出して照り光り、それにつれて身体が小刻みに揺れ悶え始める。
「あッ・・・ハッ、ハッ、ハッ・・・」
次第に呼吸を荒げながら女はやおらに上体を深く折って乳房を激しく振り、今は完全に勃起した乳首が太ももに擦れると、快感のあまり感電したように勢い良くのけぞった。
「くひイイーッ!」
汗とよだれがしぶきとなって飛び散り、豊かな白銀の髪が空中に扇のように広がり波打つ。
「えはァァ・・・」
全身をすっかり上気させ、堪りかねたようにゴロリと横たわって、女は脚を大きく開いた。
じゅッ、ちゅッ、ちゅッ、ちゅッ・・・。
彼女の秘部は既にすっかり露を含み、内股のひくつきにリズムを合わせて淫らな音を立て始めている。
くだんの液体は、恐ろしく強力な、即効性の媚薬だったのである!
女の理性をわしづかみにして握り砕き、過去も、名前すら意識から溶かし去って、一匹の浅ましい牝犬へとおとしめた猛毒の水・・・・・それが今また彼女の中で猛威を振るい、歓喜の波をその身体の隅々にまで送り込みつつあった。
そしてその波はみるみる彼女の忍耐の喫水を越えるほどに高まり、激しく打ち寄せる!
「 あクウウッ、あクウウッ!」
言葉にならない声を上げ、背中に束ねられた両腕が何とか自由にならないかと、必死で身をもがく。
(おッ、お願い、誰かこの縛めをほどいてッ!この手であそこをこね広げたいの!思うさま、奥の奥までかきまわしたいのォーッ!)
心中でのその浅ましい絶叫が聞こえたかのように、正体不明の白い手は、椀を下に置くと女の股間をまさぐり苛み始めた。
じゅッ、チュッ、チュプッ、チュプッ・・・。
ふくれあがった陰核を小刻みになでさすられると、サーモンピンクの内壁がみるみるまくれはじけて、透明な樹液をとめどなく溢れ出させる。
「くハッ、あくひャアアーッ!」
もはや人としての誇りや、羞恥心のかけらも無い。淫らな喜びをむさぼり尽くそうと、女は獣のように喚き、首を振り、身をよじった。体液が細かく舞い、首輪の金具がガチャガチャと音を立てる。
と、闇の中から、今度は黒い蛇のようなものがスルスルとしなやかに伸びてきた。
所々にぶくぶくと醜い突起のある表面は、てらてらと何かに濡れて光っている。
ぎゅッ、ぎゅッ、ぎゅッ・・・。
不気味な音を立て、狙いを定めるかのように一度、二度と鎌首をもたげると、それはやおらに女の股間に向けて突進し、秘唇のあわい目に分け入り貫いた!
「いヒィイーッ!」
絶叫と共に、女が大きくのけぞる。
みチッ、みチッ・・・。
肉の襞をかき分け、身をよじって押し入ってくるその毒蛇を、女の花芯は喜びの涙を溢れさせて迎え入れた。そしてふくれあがったその先端を、子宮の筋肉ががっちりとくわえ込み、快楽のほんの一しずくまでも逃すまいとする。
(ああッ、なんて素敵なのッ!こんな目の眩むような喜びを、私はほんの最近まで知らなかったんだ。なんとつまらない世界に生きていたのだろう。ああ、もっともっと奥まで来てッ!もっともっと、私に天国を見せてッ!)
女の意識が桃源郷に踏み入りかけた時、闇の奥から、邪悪な響きを帯びた忍び笑いが、小さく漂いもれてきた。
「クク・・・クククククク・・・」
例の白い手の主が、初めて発した声であった。
「いいザマだな。すっかり夢見心地かい?」
甲高いその声音は、男とも女とも判然としない。
ただ一つ確かなのは、それが何かまがまがしい、よこしまな気配を感じさせるということだけだ。
しかし女は、その謎の声の揶揄に何ら恥じ入るでもない。そう、今はそんなことはどうでもいい。それどころではないのだ。
ほら、見通せない奥の闇の中から、盛んに物をねだるようなくぐもった呻き声が、次第に高く大きく響いてくるではないか!
(ああそうだわ・・・私同様に、この至福の瞬間だけを渇き待ちこがれている者が、まだ何名か繋がれ囚われているのだっけ。だけどイヤよ!今度はいつ訪れるやも知れないこの幸せな瞬間を、もっともっと味わい尽くすまで、微塵でも他人に分け与えたりするものですか!)
輝く銀髪の女は、さらに貪欲に快楽をむさぼろうと、ともすれば遠く薄れそうになる自分の意識に鞭をくれ、喘ぎ、のたうち、淫らな声をあげ続ける。
そしてそれに応呼するかのように、例の笑い声があざけりの調子を強くしながら、次第に高く、大きく、薄暗い穴ぐらの奥へと響き伝わっていった・・・。
全裸で、両手を後ろ手に縛られ、首には犬などのつける緑色の首輪が、まるでアクセサリーのように巻かれている。
手首を縛め(いましめ)ているのは、何か動物の組織を編んだようなグロテスクな縄様のもので、その同じ素材が首輪からも上に伸びて、ややゆとりをもたせて天井の金具に結ばれている。
輝くような銀色の髪、同じく銀色の瞳、エルフ族特有の、長く尖った両耳、すっきりと形の良い鼻と唇・・・。
女の美しさは申し分無かったが、そのあられもない姿とひどく気怠げな表情が、女の印象をくずれた、淫らなものにしていた。
「うぅ・・・ふぅ・・・」
かすかに呻いた口の端から驚くほど多量の涎が溢れ出て、形良く盛り上がった女の胸を濡らしてゆく。
その視線は焦点を結んでおらず、どうやら彼女はほとんど正気を失っているらしい。
(・・・ここは何処だろう?どうして私は、ここにいるのだっけ?・・・)
霞がかかったようにハッキリしない頭の中で、彼女は独りごちる。
辺りに見えるのはじめじめと湿気を含み、冷たく脆そうな泥質の岩肌。そこを浅く穿って立て灯された、蝋燭のわずかな明かりだけである。
こんな所で、なぜ自分は家畜にも劣る扱いを受け、浅ましい姿をさらしているのか。
(どうして?・・・何も分からない・・・。そもそも、この私はどこの誰だったろう?・・・ああ何も思い出せない・・・)
おぼろげながら、自分には何か大切な使命があったような気がする。そして本来の自分は、華やかな栄光の中で、多くの人々に畏敬をもって迎えられていたような気も・・・。
だがそれは、そんな気がするだけだ。
確かなことは何も思い出せないし、特に思い出したくもない。
昼も夜も定かでないこの闇の牢獄で不自由に繋がれ飼われているというのも、今の彼女にはそこそこに気楽で不快ではない。
それに、こうしておとなしく夢幻をすごしていれば、時折何にも代えがたいめくるめくような至福が与えられるのだ。
それは・・・。
と、その時、彼女を取り巻く闇の一部がかすかに動き、そこから白い人の手がスーッと突き出されてきた。
手は粗末な木製の椀を持っており、中には何か透明な粘い液体が、七分目ほど注がれている。その液体こそ、彼女が夢にうつつに待ちこがれた、素晴らしい至福の源だった。
「うッ、うッううーッ!」
ようやく訪れたご馳走に我を忘れ、女は獣のように浅ましく鼻を鳴らして椀にむしゃぶりついた。
ずずっ、ずずーっ。
下品な音を立て、中の液体を無我夢中ですすり込む。
白い手は注意深く椀を傾けて彼女が餌をむさぼるのを助けていたが、やがてそれが空になると、高く持ち上げて「もうおしまい」というようにヒラヒラと振って見せた。
「・・・・・・」
口元から顎の下まで、呑み込みそこねた液体とよだれでベトベトにして、女は再び岩肌に身をもたせかけると満足げに目をつむる。
程なくして、その全身に変化が現れた。
「んん・・・んフうッ!・・・」
豊かな両の乳房がブルブルと震えながらさらに大きく張り、固く尖りだした乳首を頂点として、細かな汗の粒が一面に浮いてくる。
「んッ、んッ・・・」
汗はやがて全身に吹き出して照り光り、それにつれて身体が小刻みに揺れ悶え始める。
「あッ・・・ハッ、ハッ、ハッ・・・」
次第に呼吸を荒げながら女はやおらに上体を深く折って乳房を激しく振り、今は完全に勃起した乳首が太ももに擦れると、快感のあまり感電したように勢い良くのけぞった。
「くひイイーッ!」
汗とよだれがしぶきとなって飛び散り、豊かな白銀の髪が空中に扇のように広がり波打つ。
「えはァァ・・・」
全身をすっかり上気させ、堪りかねたようにゴロリと横たわって、女は脚を大きく開いた。
じゅッ、ちゅッ、ちゅッ、ちゅッ・・・。
彼女の秘部は既にすっかり露を含み、内股のひくつきにリズムを合わせて淫らな音を立て始めている。
くだんの液体は、恐ろしく強力な、即効性の媚薬だったのである!
女の理性をわしづかみにして握り砕き、過去も、名前すら意識から溶かし去って、一匹の浅ましい牝犬へとおとしめた猛毒の水・・・・・それが今また彼女の中で猛威を振るい、歓喜の波をその身体の隅々にまで送り込みつつあった。
そしてその波はみるみる彼女の忍耐の喫水を越えるほどに高まり、激しく打ち寄せる!
「 あクウウッ、あクウウッ!」
言葉にならない声を上げ、背中に束ねられた両腕が何とか自由にならないかと、必死で身をもがく。
(おッ、お願い、誰かこの縛めをほどいてッ!この手であそこをこね広げたいの!思うさま、奥の奥までかきまわしたいのォーッ!)
心中でのその浅ましい絶叫が聞こえたかのように、正体不明の白い手は、椀を下に置くと女の股間をまさぐり苛み始めた。
じゅッ、チュッ、チュプッ、チュプッ・・・。
ふくれあがった陰核を小刻みになでさすられると、サーモンピンクの内壁がみるみるまくれはじけて、透明な樹液をとめどなく溢れ出させる。
「くハッ、あくひャアアーッ!」
もはや人としての誇りや、羞恥心のかけらも無い。淫らな喜びをむさぼり尽くそうと、女は獣のように喚き、首を振り、身をよじった。体液が細かく舞い、首輪の金具がガチャガチャと音を立てる。
と、闇の中から、今度は黒い蛇のようなものがスルスルとしなやかに伸びてきた。
所々にぶくぶくと醜い突起のある表面は、てらてらと何かに濡れて光っている。
ぎゅッ、ぎゅッ、ぎゅッ・・・。
不気味な音を立て、狙いを定めるかのように一度、二度と鎌首をもたげると、それはやおらに女の股間に向けて突進し、秘唇のあわい目に分け入り貫いた!
「いヒィイーッ!」
絶叫と共に、女が大きくのけぞる。
みチッ、みチッ・・・。
肉の襞をかき分け、身をよじって押し入ってくるその毒蛇を、女の花芯は喜びの涙を溢れさせて迎え入れた。そしてふくれあがったその先端を、子宮の筋肉ががっちりとくわえ込み、快楽のほんの一しずくまでも逃すまいとする。
(ああッ、なんて素敵なのッ!こんな目の眩むような喜びを、私はほんの最近まで知らなかったんだ。なんとつまらない世界に生きていたのだろう。ああ、もっともっと奥まで来てッ!もっともっと、私に天国を見せてッ!)
女の意識が桃源郷に踏み入りかけた時、闇の奥から、邪悪な響きを帯びた忍び笑いが、小さく漂いもれてきた。
「クク・・・クククククク・・・」
例の白い手の主が、初めて発した声であった。
「いいザマだな。すっかり夢見心地かい?」
甲高いその声音は、男とも女とも判然としない。
ただ一つ確かなのは、それが何かまがまがしい、よこしまな気配を感じさせるということだけだ。
しかし女は、その謎の声の揶揄に何ら恥じ入るでもない。そう、今はそんなことはどうでもいい。それどころではないのだ。
ほら、見通せない奥の闇の中から、盛んに物をねだるようなくぐもった呻き声が、次第に高く大きく響いてくるではないか!
(ああそうだわ・・・私同様に、この至福の瞬間だけを渇き待ちこがれている者が、まだ何名か繋がれ囚われているのだっけ。だけどイヤよ!今度はいつ訪れるやも知れないこの幸せな瞬間を、もっともっと味わい尽くすまで、微塵でも他人に分け与えたりするものですか!)
輝く銀髪の女は、さらに貪欲に快楽をむさぼろうと、ともすれば遠く薄れそうになる自分の意識に鞭をくれ、喘ぎ、のたうち、淫らな声をあげ続ける。
そしてそれに応呼するかのように、例の笑い声があざけりの調子を強くしながら、次第に高く、大きく、薄暗い穴ぐらの奥へと響き伝わっていった・・・。
奈落の森の聖姉妹 第1章 伝説の森の悪魔(2)
「ふう・・・」
エルフの少女神官アイーシャは、森のほぼ中央にある小さな花園へと足を踏み入れて、緊張をときほぐすかのように大きく息をついた。
健康的な肌色をした端正な面立ちが、花園を満たす初夏の陽射しを浴びてツヤツヤと光輝く。
濃い緑色の髪が、両肩の上で羽根のようにフワリと踊った。
内側に緩くカールしたその髪型は、16歳になったばかりの彼女には心もち重苦しく、不釣り合いに見える。しかし彼女は、そんなことをいっかな意に介していなかった。
(あたしはもう、一人前だもの。いいえ、神術の実力なら、モニカ姉さまにだって絶対に負けやしない!)
その自惚れはあながち根拠のないことではなく、事実彼女は、神官長の親衛隊「光の盾」の最年少メンバーとして、末席に名を連ねているのだ。そして親衛隊の「西の礎」の長として20人の神官を従える2つ年上の姉モニカも、神術行使の才能では、この勝ち気な妹に一目も二目も置いているのだった。
そのアイーシャが、今は髪の先がチリチリするような緊張の中に身を置いている。彼女は、とある目的のためにここにやってきたのだ。
不気味に黒く、彼女を押しつぶすかのように包む森、いにしえより「イヴァンの掌」と呼び慣わされているこの森へと・・・。
エルフの少女神官アイーシャは、森のほぼ中央にある小さな花園へと足を踏み入れて、緊張をときほぐすかのように大きく息をついた。
健康的な肌色をした端正な面立ちが、花園を満たす初夏の陽射しを浴びてツヤツヤと光輝く。
濃い緑色の髪が、両肩の上で羽根のようにフワリと踊った。
内側に緩くカールしたその髪型は、16歳になったばかりの彼女には心もち重苦しく、不釣り合いに見える。しかし彼女は、そんなことをいっかな意に介していなかった。
(あたしはもう、一人前だもの。いいえ、神術の実力なら、モニカ姉さまにだって絶対に負けやしない!)
その自惚れはあながち根拠のないことではなく、事実彼女は、神官長の親衛隊「光の盾」の最年少メンバーとして、末席に名を連ねているのだ。そして親衛隊の「西の礎」の長として20人の神官を従える2つ年上の姉モニカも、神術行使の才能では、この勝ち気な妹に一目も二目も置いているのだった。
そのアイーシャが、今は髪の先がチリチリするような緊張の中に身を置いている。彼女は、とある目的のためにここにやってきたのだ。
不気味に黒く、彼女を押しつぶすかのように包む森、いにしえより「イヴァンの掌」と呼び慣わされているこの森へと・・・。
奈落の森の聖姉妹 第1章 伝説の森の悪魔(3)
アイーシャたちが住む「エルフの里」は、この森と同一の場所に、次元を異にして存在している。そこへは森の中の神域を通って、エルフだけが行くことが出来る。
つまりこの森は、この世界とエルフの世界との端境にあり、鎮守の役割を果たしているのだ。
はるかなる昔、人間たちの迫害によって、エルフ達は滅ぼされる寸前にまで追いつめられた。
そして生き残ったわずかなエルフがこの地にたどり着いたとき、光の神イヴァンが天空より手のひらを地面につき、エルフの里へと続く道を押し開けてくれた。
エルフ達が異世界へと逃げ込んだ後にそこが森となり、血に飢えた人間達が、エルフの世界を再び侵すことを阻んだのだという。
いにしえより言い伝えられるこの説話が真実なのかどうかはわからないが、エルフ達は今でもイヴァン神を崇めたたえ、アイーシャたち神官はイヴァンの使徒として神術を行使して、エルフの里を守り支えているのだ。
しかし最近、永年磐石を誇ったエルフの里の守護体制に、わずかなほころびがあらわれた。
この森は、二つの世界をつなぎ、また隔てる鎮守として、決してその管理をおろそかには出来ない。
したがって神官たちの中でも選りすぐりの者たちが代々その任に当たってきた。それが神官長の警護も兼ねる「光の盾」であり、東西南北四つの礎と呼ばれるエリート集団なのだ。
これらはすべてイヴァン神に忠誠を誓った女性神官によって構成されていて、各々のメンバーは皆、生まれ落ちる以前より神に仕えることを運命づけられた汚れなき乙女達である。そして神術の使い手としては、いずれ劣らぬ猛者ぞろいであった。
ところがある日「南の礎」の神官が一人、森を監視する任務の途中で行方がわからなくなった。翌日に、またもや一人。そしてあるまいことか、自ら捜索に出動した「南の礎」の長、マグダレナまでもが帰らなかったのである!
「光の盾」は騒然となった。
いったい何事が起きたのだ。人間にさらわれたのか?ありえないことでもない。その昔人間は、エルフ達を奴隷として虐待したのだから。
しかし非力な一般のエルフならともかく、強力な神術を行使する「光の盾」の神官が、人間の襲撃から自分の身を守れないわけがない。
とりわけ「南の礎」を束ね率いるマグダレナは、18歳と若輩ではあるが、四代も続く優秀な神官の家系に生まれ、未来の神官長候補としてその将来を嘱望されていた実力者なのだ。
何か強力な未知の敵に遭遇したのであろうか。ならば「光の盾」の総力をもって撃って出るべきか、それとも防備を固めるべきなのか?・・・・・
正体不明の脅威にどう対応するのか、永い平和に慣れきったエルフ達の議論はなかなか決着しなかった。
アイーシャは、それを尻目に一人でこの事件の真相を探るべく、この世界へ、この森へとやって来たのだ。
(私が一人でこの事件を解決すれば、お姉さまだって私の実力を認めざるを得ないわ。・・・いいえ、うまくすると、今は空席になっている「南の礎」の長に、私を推挙してもらえるかもしれない・・・)
勝ち気なアイーシャの、したたかな計算がそこにあった。
円満な性格で人望も厚い姉、モニカ。アイーシャはその姉を愛してはいたが、同時に軽い羨望の念を、幼い頃よりずっと抱き続けていたのだ。
その思いを払拭するためにも、姉に勝る実績をここで挙げておきたい。アイーシャなりにそう思い詰めた末での、今回の独走であった。
「見ていて、お姉さま・・・」
そうつぶやいて彼女は、再び決意を新たにするかのように、綺麗なアーモンド型の目をしばたたいた。
つまりこの森は、この世界とエルフの世界との端境にあり、鎮守の役割を果たしているのだ。
はるかなる昔、人間たちの迫害によって、エルフ達は滅ぼされる寸前にまで追いつめられた。
そして生き残ったわずかなエルフがこの地にたどり着いたとき、光の神イヴァンが天空より手のひらを地面につき、エルフの里へと続く道を押し開けてくれた。
エルフ達が異世界へと逃げ込んだ後にそこが森となり、血に飢えた人間達が、エルフの世界を再び侵すことを阻んだのだという。
いにしえより言い伝えられるこの説話が真実なのかどうかはわからないが、エルフ達は今でもイヴァン神を崇めたたえ、アイーシャたち神官はイヴァンの使徒として神術を行使して、エルフの里を守り支えているのだ。
しかし最近、永年磐石を誇ったエルフの里の守護体制に、わずかなほころびがあらわれた。
この森は、二つの世界をつなぎ、また隔てる鎮守として、決してその管理をおろそかには出来ない。
したがって神官たちの中でも選りすぐりの者たちが代々その任に当たってきた。それが神官長の警護も兼ねる「光の盾」であり、東西南北四つの礎と呼ばれるエリート集団なのだ。
これらはすべてイヴァン神に忠誠を誓った女性神官によって構成されていて、各々のメンバーは皆、生まれ落ちる以前より神に仕えることを運命づけられた汚れなき乙女達である。そして神術の使い手としては、いずれ劣らぬ猛者ぞろいであった。
ところがある日「南の礎」の神官が一人、森を監視する任務の途中で行方がわからなくなった。翌日に、またもや一人。そしてあるまいことか、自ら捜索に出動した「南の礎」の長、マグダレナまでもが帰らなかったのである!
「光の盾」は騒然となった。
いったい何事が起きたのだ。人間にさらわれたのか?ありえないことでもない。その昔人間は、エルフ達を奴隷として虐待したのだから。
しかし非力な一般のエルフならともかく、強力な神術を行使する「光の盾」の神官が、人間の襲撃から自分の身を守れないわけがない。
とりわけ「南の礎」を束ね率いるマグダレナは、18歳と若輩ではあるが、四代も続く優秀な神官の家系に生まれ、未来の神官長候補としてその将来を嘱望されていた実力者なのだ。
何か強力な未知の敵に遭遇したのであろうか。ならば「光の盾」の総力をもって撃って出るべきか、それとも防備を固めるべきなのか?・・・・・
正体不明の脅威にどう対応するのか、永い平和に慣れきったエルフ達の議論はなかなか決着しなかった。
アイーシャは、それを尻目に一人でこの事件の真相を探るべく、この世界へ、この森へとやって来たのだ。
(私が一人でこの事件を解決すれば、お姉さまだって私の実力を認めざるを得ないわ。・・・いいえ、うまくすると、今は空席になっている「南の礎」の長に、私を推挙してもらえるかもしれない・・・)
勝ち気なアイーシャの、したたかな計算がそこにあった。
円満な性格で人望も厚い姉、モニカ。アイーシャはその姉を愛してはいたが、同時に軽い羨望の念を、幼い頃よりずっと抱き続けていたのだ。
その思いを払拭するためにも、姉に勝る実績をここで挙げておきたい。アイーシャなりにそう思い詰めた末での、今回の独走であった。
「見ていて、お姉さま・・・」
そうつぶやいて彼女は、再び決意を新たにするかのように、綺麗なアーモンド型の目をしばたたいた。
奈落の森の聖姉妹 第1章 伝説の森の悪魔(4)
気負いとは裏腹に、森を圧し包む不気味な緊張感は、気の強いアイーシャにも長く堪えることが荷であった。そこで一息つくつもりで、この花園へと出てきたのである。
森は確かに聖なる神域だが、その暗く重々しい雰囲気は、ややもすると息苦しささえ覚える。しかも今は、そのどこかに邪悪な敵が潜んでいるかもしれないのだ。
それに比べて、この花園の明るく華やいだ様子はどうだろう。それほど広くはないが、様々な彩りの花が咲き乱れ、森の木々の天井がぽっかりと切れた空から、初夏の陽光が惜しみなく降りそそいでいる。ここならば、とてもではないが不吉なことが起こりそうな気配のかけらもない。
アイーシャたち「光の盾」のメンバーもここを「中庭」と呼び慣わし、森を監視する任務の際には、小休止の場として利用するのが常であった。
「・・・・・?」
ふと、誰かの泣き声が聞こえたような気がして、アイーシャは辺りを振り返った。
今、自分が歩み出てきたばかりの森の中は、真昼だというのに薄暗く、奥まで見通すことは出来ないが、それでも近くに人のいる気配のないことはわかる。
「気のせいかしら・・・」
我知らずそうつぶやいた時、今度はハッキリと人のすすり泣く声が耳を打った。
「あ!・・・」
森の中ではなく、彼女のいる花園の反対側の端に、うずくまっている人の衣服らしい、濃い紫色が見える。
(いなくなった神官の一人かもしれない!)
波立つ胸を抑えながら、アイーシャは小走りに花園を横切った。
近づくにつれ、それはまぎれもなく人であることが分かったが、彼女の期待は次第に失望へと変わっていった。
エルフたちが「モナイ(笑顔)」と呼んでいる、うす黄色の愛らしい花の群落に包まれて横たわっているその人物は、まだ年端もいかない、いたいけな幼女だったのである。
(なあんだ、子供じゃないの・・・)
思わず嘆息したアイーシャの気配に気が付いて、女の子は顔を上げた。
おかっぱに切りそろえた髪に、雪のように白い肌。意志の強そうな、太くハッキリした眉の下で、大きなつり眼がちの目が油断なくアイーシャを観察している。なかなかの美少女である。
「一人でどうしたの?迷子になっちゃったの?」
我知らず優しい口調になってそう話しかけながら、アイーシャは、少女の耳が長く尖って下に伸びていることに気がついた。
「まあ・・・あなた、エルフなの?」
こっくりとうなずいた少女の目から、再び大粒の涙が一つ二つとこぼれ落ちた。暗い森の中で一人道に迷い、よほど不安だったのだろう。
少女の顔をアイーシャは知らなかったが、人口の極端に少ないエルフ族とはいえ、それでも里には二万人を越す仲間が暮らしているのだ。もとよりすべての者と顔見知りになれるはずなどないし、ましてやこんな幼子では面識がないのも当然と思えた。
「もう泣かなくても大丈夫よ。・・・いいわ、お姉さんが家まで送ってあげる、ね?」
話しかけながら少女を両腕で抱き上げようとした時、アイーシャはふと怪訝な顔つきになって動作を中断した。
「?・・・」
何かが奇妙だった。
アイーシャは大きく振り返り、辺りに人の気配がないのを確かめて、再び少女を凝視する。
少女は、アイーシャの抱擁を期待して前方に両腕を伸ばしたまま、「どうしたの?」というように首をかしげる。
いったいこのエルフの少女は、たった一人で、どうやってここにやって来たのだ?
異なる二つの世界を行き来することは、相応に修行を積み、しかるべき神術を身につけたエルフにしか出来ない。だからこそ、エルフの里は人間たちの暴虐から隔て、守られてきたのだ。ましてやこのような幼子になど!
「あなたは、いったい誰?」
用心深く後じさりながら、アイーシャは圧し殺すような声音で言った。
「どうやって、一人でここへ来たの?いいえ、誰かと一緒にだってそうそう来られるわけがないわ。神域の結界をくぐり抜けられるのは、私たち一部の神官だけだもの!」
「・・・・・」
少女はつかの間、途方に暮れたように腕を差し伸べたままでいたが、やがてふうっと大きなため息をつくと、無言のままゆっくりと立ち上がった。
「あッ・・・!」
アイーシャは目を見張った。
今まで少女が横たわっていた辺りではモナイの花が一様にしおれ、茶色く変色して花弁を巻き縮めつつある。
そればかりかその一帯の地面は薄く蒸気をあげ、土中の虫たちが次々と這い出してくるではないか!
「ククッ・・・」
血のように赤い唇の端をキユーッと歪めて少女が初めて発した声は、嘲笑とも自嘲ともとれる、忍びやかな笑い声だった。
彼女がその全身から発するすさまじく禍々しい気配に、アイーシャはようやく気がついた。
(まさかこんな子供が、「光の盾」の神官たちを・・・?)
「そう、その通り・・・」
アイーシャの心中を見透かしたように、少女は口を開いた。
「あんたが探していたのは、このあたしだよ・・・」
それは確かに甲高い子供の声音なのだが、そこに宿る気配には、聞く者を圧倒するような邪悪な凄みがあった。
「あんたのお仲間たちは、散々なぐさみものにして魂を抜かせてもらったよ。・・・しかし無警戒にあたしを抱き上げなかったところをみると、あんたは他の連中より、少しはおつむが働くようだ」
アイーシャの胸が、早鐘のように動悸を打ちはじめる。目の前にたたずんでいるのは、どう見ても十に満たない無垢な幼子だ。だがその正体は、手練の神官をものともしない、何か恐るべき怪物らしい。
と、少女はふいに深く頭を垂れ、何事かをブツブツとつぶやきはじめた。そのつぶやきがかすかに耳に入り、アイーシャは愕然として身をすくませた。
それは暗黒の神を崇める邪悪な導師らが唱え用いる、恐るべき呪詛の呪文だったからである!
「・・・とく見よ!とく見よ!永劫なる時の端境に、かの人いまそかり!右のかいなは天に、左は地に!その御頭に戴きしティアラを、そのまといし金色の法衣を、乙女の生き血で清めよ!やあ!やあ!・・・」
次第に声高に呪文を唱えながら、少女はやおら着物の裾をひるがえして、アイーシャに向かって一直線に突進してきた!
目の高さで真っ直ぐに前に伸ばした右腕の先からは、強烈な殺気がほとばしっている。呪文を唱え終わった時、そこからはさらに邪悪なエネルギーが放射されてアイーシャをからめ取るだろう。
実戦経験など無いアイーシャだが、その身体は目前に迫った危機に対応すべく反射的に動いた。
野生の鹿のような俊敏な動作で真横に飛びすさり、同時に身にまとった濃紺のケープを左右にはね上げて、両手で印を結ぶ。
「昔いまし、今いまし、全能なるイヴァンの名において精霊たちに命ずる!かの神の健やかなることを、力をもって示せ!天の馬の蹄が及ぶあらゆる地、光には安息を、闇にはいかづちを・・・」
驚くべき速さで攻撃の呪文を唱え続けながら、次々と両手の印を組み替えてゆく。この高速詠唱の巧みさこそが、アイーシャをして、姉には負けないと強烈に自負させている根拠なのだ。
と、彼女の髪が次第に逆立ち、その色を濃緑から淡い黄色へと急速に変えはじめた。この一帯の精霊たちが彼女の呼びかけに応じ、光の力を行使するために活性化を始めたのだ。
同時に辺りの花々が、集結しつつある精霊たちの光の圧力を支えかね、アイーシャの素早い移動の跡に美しい絨毯となって倒れ広がる。
「・・・汝らこの天地のいずくにおるとも、去りて来たりて光のしもべたる我がかいなを支えよ!よや、とく来たれ!」
タタン、とリズム良くステップを踏み、手を打ちながら身体を一つひねったと同時に、アイーシャは千文字を越える長い攻撃呪文を詠唱し終えていた。
謎の少女は自分も呪文を唱え続けながらアイーシャを追って花園を押し渡っていたが、その両目は次第に驚愕の色をたたえて大きく見開かれていった。
アイーシャが尋常ならざる技量の持ち主であること、そして信じがたいが、自分の態勢が不利であることに、ようやく気がついたらしい。
「ギギッ・・・!」
追いつめられたげっ歯類が発するような呪いの呻きを歯の外へ押し出し、少女は呪文の詠唱を中断して歩みを止めた。そして、間合いをはずしてアイーシャの攻撃から逃れようと、あわてて身をひるがえす。
だが、遅かった。
「ブナ・オ・イー(破魔の大槌)!」
花園にアイーシャの澄んだ気合いが響き渡り、高く盛り上がった胸の前で交差させた腕が、まばゆい光を放つ!と同時に巨大な光の柱が天から真っ直ぐに降り来たり、まごつく謎の少女を押しつぶすように屹立した!
ドドドォンンン!
一拍遅れてすさまじい大音響と衝撃波が発生し、辺り一面のか弱い花々をことごとくなぎ倒す。
森全体が、震えどよめいたかのようであった。
「・・・・・」
アイーシャはしっかりと両目を見開いたまま身じろぎもせずに立っていたが、やがて大きく息をついて肩の力を抜くと、組んだ両腕を左右にくつろげ、残心の姿勢をとった。
逆立っていた髪が、徐々に落ちついた濃緑の色を取り戻しながら肩の上に舞い戻ってくる。
胸の鼓動も、すでにおさまりつつあった。
見ると、一瞬前まで少女が立っていた辺りでは、花々が放射状に地につくばい、その中央には彼女がまとっていた深紫のドレスだけが、くたくたと取り残されている。
勝利の感慨が、次第次第にアイーシャの中に高まり満ちてきた。
(やった!あのマグダレナ様でもかなわなかった邪悪な敵を、この私が一人で封滅したんだわ!これでみんなに私の力を認めてもらえる。もちろんお姉さまにだって!)
自らの神術で他人の生命を奪ったのはこれが初めてであり、そのことに心がまったく痛まないではなかったが、光の神術は邪悪なる者のみを滅し、心清らかな者には傷一つつけることはないのだから、それによって散滅した少女は、やはりよこしまな魔物であり自業自得だったと納得できる。しかもこの魔物は、仲間たちを三人も手にかけた憎むべき敵ではないか。
そこまで考えて、アイーシャは我に返ったように辺りを見回し、ついで目の前に取り残された少女のドレスを拾い上げようと身をかがめた。
(いなくなった三人は、まだ死んだとは決まっていないわ。「魂を抜いた。」なんて訳の分からないことを言ってたけど、どこかに幽閉されているだけなのかもしれない。もしそうだとしたら・・・)
その行方をつきとめるために、この忌むべき衣が何かの手がかりになるかもしれない。それになによりも、自分が今回の騒動を単独で解決したことの唯一の証拠、戦利品なのだ。
(ぜひとも持ち帰って、皆に示さなければ・・・)
手を伸ばしてドレスの裾をつかむ。
と、
「・・・?」
意外な手応えに、アイーシャはオヤッ?となって手もとを凝視した。
ドレスの生地は何かよくわからないが、表面の様子から、サラサラとした木綿のような手ざわりを予想していたのだ。しかし。
手に取ったそれは、ベッタリと粘っこく、重たかった。まるで何かでぐっしょりと湿っているかのようだ。
(まさか、あの子の血でも染み込んだのかしら?・・・)
しかしそんなはずはない。光の神術は、相手が邪悪な者であれば、その血の一滴までこの世界から放逐せずにはおかないのだから。
「あッ!・・・」
その時アイーシャは、ドレスをつかんだ右手が激しく引っ張られたような気がして、小さく叫び声を上げた。
いや、気のせいではない。
見るとドレスは端の方からひとりでに細切れとなり、生き物のように動いてアイーシャの手首をからめとりつつあるではないか!
さらに各々の細切れはアメーバの触手のようにその先端を伸ばし、先を争って彼女の肘へ、肩へと、恐るべき勢いで這いあがってきたのである!
「こ、これは?・・・」
一体何が起こっているのか分からず、さしものアイーシャもすっかりうろたえた声を上げた。
さっきまでドレスだったその物体は、今ではすっかり元の形を失って紫の蛇の群のように彼女の首までを被い尽くし、今度は胸元に向かって急速にふくれあがりつつある。
しかも恐ろしいことに、その触手に被われた身体の部位は、まさに蛇の毒に冒されたかのごとく、冷たくしびれて感覚を失ってゆくのだ!
「うぅ、くッ・・・」
すでに上半身をすっかり触手に被われたアイーシャは、自由にならない身体を何とかよじってそれを振りほどこうともがき、かえってバランスを失って、ガックリと両膝をついた。
いつの間にか、顔いっぱいに冷や汗が吹き出していた。
「ク、クククククク・・・」
その時、ゾッとするようなひそやかな忍び笑いが、苦悶する彼女の耳朶を打った。と同時に、息のかかるほどのすぐそばに、何者かの気配が唐突に感じられた。
「だ、誰?・・・」
なんとか首だけを左右にねじって笑い声の主を求め、それを果たしてアイーシャは愕然となった。
ほんの一瞬前、空中に散滅したはずのあの少女が、すぐ右脇に全裸でうつ伏せになり、イタズラっぽい笑顔を浮かべて彼女を見上げているではないか!
「あ、あなた、いったい・・・?」
あまりに信じがたい光景にそれ以上言葉が続かず、アイーシャはただ茫然と少女の美しい肢体を見おろした。
「あんな子供だましの神術で、このあたしに髪の毛一筋ほどの傷でもつけられると思ったのかい、ええ?」
目を細め、口の端をキュッと歪めた得意げな顔で、少女は相変わらずの大人びた口調を使った。
「『勝った。』と思ったろう?そいつが命取りなのさ。ケンカってのはな、いつでも先に歌った方が負けなんだよ!」
「おッ、おのれ化け物ッ!」
激しい怒りと屈辱に呻き、自らの油断に歯がみをしながら、しかしアイーシャは立ち上がることが出来ない。既に、全身の感覚が無くなりつつあった。
それにしても、アイーシャの神術を「子供だまし」と揶揄したこの少女は、いったい何者だろう?
「クククク・・・動けまい?あたしに触れた者は、それでもう助かりっこない、おしまいなのさ。あたしは闇そのものなんだから。もとは普通のそのドレスだって、着古すうちにあたしの力の影響を受けて、強力な闇の生き物に変わったのさ。言ってみりゃあたしの身体の一部なんだ。それに触れたお前は、やっぱりもう逃げられっこないんだよ・・・」
勝ち誇ったようにしゃべり続けながら、傍らで少女が立ち上がる気配がしたが、アイーシャはもうそちらを見ることも、声を立てることすら出来ない。
触手はいまや彼女の全身を覆い、身体中の力を、思考力までをも、急速に吸い取り尽くそうとしていた。
「お姉・・・さま・・・」
か細くつぶやいて、アイーシャはついに頭から散り敷かれた花びらの上に倒れ伏し、気を失った。
「クク・・・クククククク・・・」
4匹目の美しい獲物を仕留め、満足げな少女の忍び笑い、そしてサワサワという触手のさざめきが辺りを支配する。
花園にふりそそいでいた華やかな日差しはいつの間にかすっかりと陰り、上空を不吉な鉛色の雲が分厚く覆い始めていた・・・。
森は確かに聖なる神域だが、その暗く重々しい雰囲気は、ややもすると息苦しささえ覚える。しかも今は、そのどこかに邪悪な敵が潜んでいるかもしれないのだ。
それに比べて、この花園の明るく華やいだ様子はどうだろう。それほど広くはないが、様々な彩りの花が咲き乱れ、森の木々の天井がぽっかりと切れた空から、初夏の陽光が惜しみなく降りそそいでいる。ここならば、とてもではないが不吉なことが起こりそうな気配のかけらもない。
アイーシャたち「光の盾」のメンバーもここを「中庭」と呼び慣わし、森を監視する任務の際には、小休止の場として利用するのが常であった。
「・・・・・?」
ふと、誰かの泣き声が聞こえたような気がして、アイーシャは辺りを振り返った。
今、自分が歩み出てきたばかりの森の中は、真昼だというのに薄暗く、奥まで見通すことは出来ないが、それでも近くに人のいる気配のないことはわかる。
「気のせいかしら・・・」
我知らずそうつぶやいた時、今度はハッキリと人のすすり泣く声が耳を打った。
「あ!・・・」
森の中ではなく、彼女のいる花園の反対側の端に、うずくまっている人の衣服らしい、濃い紫色が見える。
(いなくなった神官の一人かもしれない!)
波立つ胸を抑えながら、アイーシャは小走りに花園を横切った。
近づくにつれ、それはまぎれもなく人であることが分かったが、彼女の期待は次第に失望へと変わっていった。
エルフたちが「モナイ(笑顔)」と呼んでいる、うす黄色の愛らしい花の群落に包まれて横たわっているその人物は、まだ年端もいかない、いたいけな幼女だったのである。
(なあんだ、子供じゃないの・・・)
思わず嘆息したアイーシャの気配に気が付いて、女の子は顔を上げた。
おかっぱに切りそろえた髪に、雪のように白い肌。意志の強そうな、太くハッキリした眉の下で、大きなつり眼がちの目が油断なくアイーシャを観察している。なかなかの美少女である。
「一人でどうしたの?迷子になっちゃったの?」
我知らず優しい口調になってそう話しかけながら、アイーシャは、少女の耳が長く尖って下に伸びていることに気がついた。
「まあ・・・あなた、エルフなの?」
こっくりとうなずいた少女の目から、再び大粒の涙が一つ二つとこぼれ落ちた。暗い森の中で一人道に迷い、よほど不安だったのだろう。
少女の顔をアイーシャは知らなかったが、人口の極端に少ないエルフ族とはいえ、それでも里には二万人を越す仲間が暮らしているのだ。もとよりすべての者と顔見知りになれるはずなどないし、ましてやこんな幼子では面識がないのも当然と思えた。
「もう泣かなくても大丈夫よ。・・・いいわ、お姉さんが家まで送ってあげる、ね?」
話しかけながら少女を両腕で抱き上げようとした時、アイーシャはふと怪訝な顔つきになって動作を中断した。
「?・・・」
何かが奇妙だった。
アイーシャは大きく振り返り、辺りに人の気配がないのを確かめて、再び少女を凝視する。
少女は、アイーシャの抱擁を期待して前方に両腕を伸ばしたまま、「どうしたの?」というように首をかしげる。
いったいこのエルフの少女は、たった一人で、どうやってここにやって来たのだ?
異なる二つの世界を行き来することは、相応に修行を積み、しかるべき神術を身につけたエルフにしか出来ない。だからこそ、エルフの里は人間たちの暴虐から隔て、守られてきたのだ。ましてやこのような幼子になど!
「あなたは、いったい誰?」
用心深く後じさりながら、アイーシャは圧し殺すような声音で言った。
「どうやって、一人でここへ来たの?いいえ、誰かと一緒にだってそうそう来られるわけがないわ。神域の結界をくぐり抜けられるのは、私たち一部の神官だけだもの!」
「・・・・・」
少女はつかの間、途方に暮れたように腕を差し伸べたままでいたが、やがてふうっと大きなため息をつくと、無言のままゆっくりと立ち上がった。
「あッ・・・!」
アイーシャは目を見張った。
今まで少女が横たわっていた辺りではモナイの花が一様にしおれ、茶色く変色して花弁を巻き縮めつつある。
そればかりかその一帯の地面は薄く蒸気をあげ、土中の虫たちが次々と這い出してくるではないか!
「ククッ・・・」
血のように赤い唇の端をキユーッと歪めて少女が初めて発した声は、嘲笑とも自嘲ともとれる、忍びやかな笑い声だった。
彼女がその全身から発するすさまじく禍々しい気配に、アイーシャはようやく気がついた。
(まさかこんな子供が、「光の盾」の神官たちを・・・?)
「そう、その通り・・・」
アイーシャの心中を見透かしたように、少女は口を開いた。
「あんたが探していたのは、このあたしだよ・・・」
それは確かに甲高い子供の声音なのだが、そこに宿る気配には、聞く者を圧倒するような邪悪な凄みがあった。
「あんたのお仲間たちは、散々なぐさみものにして魂を抜かせてもらったよ。・・・しかし無警戒にあたしを抱き上げなかったところをみると、あんたは他の連中より、少しはおつむが働くようだ」
アイーシャの胸が、早鐘のように動悸を打ちはじめる。目の前にたたずんでいるのは、どう見ても十に満たない無垢な幼子だ。だがその正体は、手練の神官をものともしない、何か恐るべき怪物らしい。
と、少女はふいに深く頭を垂れ、何事かをブツブツとつぶやきはじめた。そのつぶやきがかすかに耳に入り、アイーシャは愕然として身をすくませた。
それは暗黒の神を崇める邪悪な導師らが唱え用いる、恐るべき呪詛の呪文だったからである!
「・・・とく見よ!とく見よ!永劫なる時の端境に、かの人いまそかり!右のかいなは天に、左は地に!その御頭に戴きしティアラを、そのまといし金色の法衣を、乙女の生き血で清めよ!やあ!やあ!・・・」
次第に声高に呪文を唱えながら、少女はやおら着物の裾をひるがえして、アイーシャに向かって一直線に突進してきた!
目の高さで真っ直ぐに前に伸ばした右腕の先からは、強烈な殺気がほとばしっている。呪文を唱え終わった時、そこからはさらに邪悪なエネルギーが放射されてアイーシャをからめ取るだろう。
実戦経験など無いアイーシャだが、その身体は目前に迫った危機に対応すべく反射的に動いた。
野生の鹿のような俊敏な動作で真横に飛びすさり、同時に身にまとった濃紺のケープを左右にはね上げて、両手で印を結ぶ。
「昔いまし、今いまし、全能なるイヴァンの名において精霊たちに命ずる!かの神の健やかなることを、力をもって示せ!天の馬の蹄が及ぶあらゆる地、光には安息を、闇にはいかづちを・・・」
驚くべき速さで攻撃の呪文を唱え続けながら、次々と両手の印を組み替えてゆく。この高速詠唱の巧みさこそが、アイーシャをして、姉には負けないと強烈に自負させている根拠なのだ。
と、彼女の髪が次第に逆立ち、その色を濃緑から淡い黄色へと急速に変えはじめた。この一帯の精霊たちが彼女の呼びかけに応じ、光の力を行使するために活性化を始めたのだ。
同時に辺りの花々が、集結しつつある精霊たちの光の圧力を支えかね、アイーシャの素早い移動の跡に美しい絨毯となって倒れ広がる。
「・・・汝らこの天地のいずくにおるとも、去りて来たりて光のしもべたる我がかいなを支えよ!よや、とく来たれ!」
タタン、とリズム良くステップを踏み、手を打ちながら身体を一つひねったと同時に、アイーシャは千文字を越える長い攻撃呪文を詠唱し終えていた。
謎の少女は自分も呪文を唱え続けながらアイーシャを追って花園を押し渡っていたが、その両目は次第に驚愕の色をたたえて大きく見開かれていった。
アイーシャが尋常ならざる技量の持ち主であること、そして信じがたいが、自分の態勢が不利であることに、ようやく気がついたらしい。
「ギギッ・・・!」
追いつめられたげっ歯類が発するような呪いの呻きを歯の外へ押し出し、少女は呪文の詠唱を中断して歩みを止めた。そして、間合いをはずしてアイーシャの攻撃から逃れようと、あわてて身をひるがえす。
だが、遅かった。
「ブナ・オ・イー(破魔の大槌)!」
花園にアイーシャの澄んだ気合いが響き渡り、高く盛り上がった胸の前で交差させた腕が、まばゆい光を放つ!と同時に巨大な光の柱が天から真っ直ぐに降り来たり、まごつく謎の少女を押しつぶすように屹立した!
ドドドォンンン!
一拍遅れてすさまじい大音響と衝撃波が発生し、辺り一面のか弱い花々をことごとくなぎ倒す。
森全体が、震えどよめいたかのようであった。
「・・・・・」
アイーシャはしっかりと両目を見開いたまま身じろぎもせずに立っていたが、やがて大きく息をついて肩の力を抜くと、組んだ両腕を左右にくつろげ、残心の姿勢をとった。
逆立っていた髪が、徐々に落ちついた濃緑の色を取り戻しながら肩の上に舞い戻ってくる。
胸の鼓動も、すでにおさまりつつあった。
見ると、一瞬前まで少女が立っていた辺りでは、花々が放射状に地につくばい、その中央には彼女がまとっていた深紫のドレスだけが、くたくたと取り残されている。
勝利の感慨が、次第次第にアイーシャの中に高まり満ちてきた。
(やった!あのマグダレナ様でもかなわなかった邪悪な敵を、この私が一人で封滅したんだわ!これでみんなに私の力を認めてもらえる。もちろんお姉さまにだって!)
自らの神術で他人の生命を奪ったのはこれが初めてであり、そのことに心がまったく痛まないではなかったが、光の神術は邪悪なる者のみを滅し、心清らかな者には傷一つつけることはないのだから、それによって散滅した少女は、やはりよこしまな魔物であり自業自得だったと納得できる。しかもこの魔物は、仲間たちを三人も手にかけた憎むべき敵ではないか。
そこまで考えて、アイーシャは我に返ったように辺りを見回し、ついで目の前に取り残された少女のドレスを拾い上げようと身をかがめた。
(いなくなった三人は、まだ死んだとは決まっていないわ。「魂を抜いた。」なんて訳の分からないことを言ってたけど、どこかに幽閉されているだけなのかもしれない。もしそうだとしたら・・・)
その行方をつきとめるために、この忌むべき衣が何かの手がかりになるかもしれない。それになによりも、自分が今回の騒動を単独で解決したことの唯一の証拠、戦利品なのだ。
(ぜひとも持ち帰って、皆に示さなければ・・・)
手を伸ばしてドレスの裾をつかむ。
と、
「・・・?」
意外な手応えに、アイーシャはオヤッ?となって手もとを凝視した。
ドレスの生地は何かよくわからないが、表面の様子から、サラサラとした木綿のような手ざわりを予想していたのだ。しかし。
手に取ったそれは、ベッタリと粘っこく、重たかった。まるで何かでぐっしょりと湿っているかのようだ。
(まさか、あの子の血でも染み込んだのかしら?・・・)
しかしそんなはずはない。光の神術は、相手が邪悪な者であれば、その血の一滴までこの世界から放逐せずにはおかないのだから。
「あッ!・・・」
その時アイーシャは、ドレスをつかんだ右手が激しく引っ張られたような気がして、小さく叫び声を上げた。
いや、気のせいではない。
見るとドレスは端の方からひとりでに細切れとなり、生き物のように動いてアイーシャの手首をからめとりつつあるではないか!
さらに各々の細切れはアメーバの触手のようにその先端を伸ばし、先を争って彼女の肘へ、肩へと、恐るべき勢いで這いあがってきたのである!
「こ、これは?・・・」
一体何が起こっているのか分からず、さしものアイーシャもすっかりうろたえた声を上げた。
さっきまでドレスだったその物体は、今ではすっかり元の形を失って紫の蛇の群のように彼女の首までを被い尽くし、今度は胸元に向かって急速にふくれあがりつつある。
しかも恐ろしいことに、その触手に被われた身体の部位は、まさに蛇の毒に冒されたかのごとく、冷たくしびれて感覚を失ってゆくのだ!
「うぅ、くッ・・・」
すでに上半身をすっかり触手に被われたアイーシャは、自由にならない身体を何とかよじってそれを振りほどこうともがき、かえってバランスを失って、ガックリと両膝をついた。
いつの間にか、顔いっぱいに冷や汗が吹き出していた。
「ク、クククククク・・・」
その時、ゾッとするようなひそやかな忍び笑いが、苦悶する彼女の耳朶を打った。と同時に、息のかかるほどのすぐそばに、何者かの気配が唐突に感じられた。
「だ、誰?・・・」
なんとか首だけを左右にねじって笑い声の主を求め、それを果たしてアイーシャは愕然となった。
ほんの一瞬前、空中に散滅したはずのあの少女が、すぐ右脇に全裸でうつ伏せになり、イタズラっぽい笑顔を浮かべて彼女を見上げているではないか!
「あ、あなた、いったい・・・?」
あまりに信じがたい光景にそれ以上言葉が続かず、アイーシャはただ茫然と少女の美しい肢体を見おろした。
「あんな子供だましの神術で、このあたしに髪の毛一筋ほどの傷でもつけられると思ったのかい、ええ?」
目を細め、口の端をキュッと歪めた得意げな顔で、少女は相変わらずの大人びた口調を使った。
「『勝った。』と思ったろう?そいつが命取りなのさ。ケンカってのはな、いつでも先に歌った方が負けなんだよ!」
「おッ、おのれ化け物ッ!」
激しい怒りと屈辱に呻き、自らの油断に歯がみをしながら、しかしアイーシャは立ち上がることが出来ない。既に、全身の感覚が無くなりつつあった。
それにしても、アイーシャの神術を「子供だまし」と揶揄したこの少女は、いったい何者だろう?
「クククク・・・動けまい?あたしに触れた者は、それでもう助かりっこない、おしまいなのさ。あたしは闇そのものなんだから。もとは普通のそのドレスだって、着古すうちにあたしの力の影響を受けて、強力な闇の生き物に変わったのさ。言ってみりゃあたしの身体の一部なんだ。それに触れたお前は、やっぱりもう逃げられっこないんだよ・・・」
勝ち誇ったようにしゃべり続けながら、傍らで少女が立ち上がる気配がしたが、アイーシャはもうそちらを見ることも、声を立てることすら出来ない。
触手はいまや彼女の全身を覆い、身体中の力を、思考力までをも、急速に吸い取り尽くそうとしていた。
「お姉・・・さま・・・」
か細くつぶやいて、アイーシャはついに頭から散り敷かれた花びらの上に倒れ伏し、気を失った。
「クク・・・クククククク・・・」
4匹目の美しい獲物を仕留め、満足げな少女の忍び笑い、そしてサワサワという触手のさざめきが辺りを支配する。
花園にふりそそいでいた華やかな日差しはいつの間にかすっかりと陰り、上空を不吉な鉛色の雲が分厚く覆い始めていた・・・。