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煉獄都市 第3章 残酷夢の幕開け・引き裂かれて(3)
「うッ・・うッ・・・」
恵麻里は縛められたままの身体をソファの上で弛緩させ、間欠的に襲ってくる官能の余波に小さな呻き声を上げ続けていた。
クリスの言った通り、悪魔の媚薬ゾニアンによって、恵麻里はものの二分と経たないうちに激しい絶頂へと導かれてしまったのである。それも立て続けに二度も!・・・。
(ああ、どうしてこんなことに!・・・・)
噛みしめた口元から、絶望を込めた吐息がこぼれ出る。
羞恥と屈辱、そして恐怖がないまぜとなり、頭の中はパニック寸前だった。
他人の、それも忌まわしい敵である犯罪者の眼前で、生まれて初めて女としての快楽の高みへ追い上げられてしまったことが、恵麻里の自信とプライドをずたずたにしていたのである。
時折突き上げてくる甘いオルガの余韻に、はだけられた胸元がピクンピクンと上下する様子が、いかにも瀕死の獲物を思わせて哀れであった。
「どう?ステキだったでしょう?」
クリスは寝かされた恵麻里の頭側に腰を下ろし、顔を背けてじっと涙をこらえている少女探偵の顎を巻き取るように腕を回した。
「あ・・・」
思わずあえぎ、身をすくませる。
首筋に触れられただけで、その部分が再びジーンと官能の熱を持ってくるのが分かった。
「あんなに清純ぶってすましていたくせに、気持ち良くってもがくわ喚くわ、大騒ぎだったじゃない。フフ、一皮むいてみれば、とんだ淫売娘ねェ・・・」
「・・・・」
「淫売」という下品な揶揄が、自尊心をザクリとえぐる。しかし浅ましく性に悶える姿を見られてしまった以上、恵麻里は言い返すことも出来ずにただうつむくしかなかった。
「ゾニアンの威力には逆らえないってことが、これで分かったでしょう?自分じゃ腕利きのS・Tのつもりでいたのかもしれないけど、今のあなたは私たちの水槽に捕らえられた小魚も同然なのよ。これからもっと存分に、身の程っていうのを思い知らせてあげる。ゆっくりと時間をかけてね・・・」
「あッ・・・」
右の乳房を包むように愛撫され、恵麻里は哀れな声を上げて身体を反り返らせた。
薄い桃色だった小さな乳首は今やどす黒く濁った血の色に変わり、その硬さとボリュームをさらにジワジワと増しつつある。クリスの掌にそこを揉みつぶすように刺激され、目のくらむような快感が体内でフラッシュのように炸裂した。
「やッ!・・ヒあッ!・・・」
歯を食いしばって呻きながら、恵麻里は何とか処刑吏の白い手から逃れようと身をくねらせる。
恐ろしい魔の薬は、未だその効力を失っていないらしい。このまま淫らな愛撫に身を任せていれば、たやすくまた、あの羞恥に満ちた絶頂へと追い込まれてしまうだろう。その恐怖心が、ついに恵麻里に悲鳴に近い哀訴の声を上げさせた。
「も、もうやめてッ!お願い、触らないでッ!」
「何言ってるの、お楽しみはまだ始まったばかりよ。ほぉら・・・」
指先が、濡れた乳首をクリクリとひねるようにつまみ上げてくる。その部分の神経が全てむき出しにされ、沸き立ったかのような、異様な恍惚感が走った。
「ああッ!」
「意地を張らずに、素直にこの快楽を楽しみなさいな。ね、恵麻里ちゃん・・・」
「ダメッ!・・や、やめ・・・あッ、アアアアぁーッ!・・・・」
魂切るような絶叫を上げ、恵麻里の身体がグーンと弓なりになる。
不安の通り、押し寄せる歓喜が、もろくもまた彼女の気を爆ぜさせてしまったのだ。
ゾニアンの猛威は、今や完全に恵麻里の若い肉体を犯し、支配して、理性によるコントロールを不能にしていた。
「あーら、イヤだイヤだと言いながら、またイッちゃったの?まったくスケベなS・Tさんねェ・・・」
「うァ・・・あ・・・・」
「さっきまでの勇ましさはどうしたの?もう一度あの『汚らわしいッ!』って啖呵を切ってみせてよ」
からかうような口調で意地悪くのぞき込むクリスを見上げながら、恵麻里は弱々しく喘いだ。
「も、もう・・許して・・・お願い・・だか・・ら・・・」
痺れるような疼きが、子宮の中でドロリと渦を巻いているのが分かる。すぐにでも次回のオルガへと成長しそうなその感覚が、恵麻里にはただ恐ろしかった。
「許す?勘違いをされちゃ困るわね。私はあなたを虐めてるわけじゃない、優しく可愛がってあげているのよ。ホントは単なる獲物に過ぎないあなたに、精一杯の敬意を表してね」
クリスは青い瞳に冷たい笑みを浮かべ、恵麻里の頬をなだめるように撫でさすった。
「それにさっきも言った通り、お楽しみはまだ始まったばかりなの。あなたを満足な『商品』に仕上げるには、もっともっと時間をかけて調教し、身体を造り替えてあげないとね・・・」
「そ、そんな・・・・」
思わず声を震わせ、恵麻里は言い募った。
「これだけ私に恥をかかせれば、もう十分でしょう?許してくれれば、もうこの『新世界準備会』からは手を引くわ。この組織の調査も、救出業務もあきらめる。だから・・・お願い・・・これ以上は・・・・」
言葉の最後は、嗚咽に近い、絞り出すような声音に変わってゆく。
心底からの許しを乞うたことで、恵麻里は自らの完全な敗北を認めたような気分になり、こらえていた涙が目尻からドッと溢れ出た。
「あらあら、泣くのはまだ早いわよ。泣かなきゃならないことは、この先まだうんとあるんだから・・・」
獲物が次第に屈服しつつあることを見て取り、クリスは満足そうに鼻を鳴らす。
「それに、この組織から手を引くだなんて遠慮がましいことは言わなくてもいいのよ。どうぞ気の済むまで『新世界準備会』を調べてちょうだい。救出業務もあきらめずにお続けなさいな。フフ、助けてほしいのは今やあなたの方でしょうけど。・・・さて、と・・・」
「あッ!・・・」
まるで新たな陵辱の幕開けを告げるかのように、クリスの手が、恵麻里の前髪を留めていたヘアバンドを抜き取った。
そしてその瞬間、恵麻里の脳裏に稲妻のように閃いたことがあった。
(そうだわ、静音!・・・あの娘は何をしているの?)
外された白いヘアバンドにマイクロ集音機が仕込まれていること、そしてそれを通して、パートナーの静音が自分の様子をモニターしていることを、恵麻里はようやく思い出したのだった。
思いもかけず囚われの身となったことに動転し、今までそのことをすっかり忘れていたのだ。
(私が敵に捕まったことは、集音機を通して分かっているはずよ!・・・ああ、早く助けに来てッ!・・・)
恵麻里がクリスに捕らえられてから、失神していた時間を考慮しなくても、すでに20分以上が経過しているはずだ。
静音が恵麻里の危機に気付いてすぐさま行動を開始しているのなら、そろそろこの場に救出に踏み込んできてもおかしくない時間だった。
しかし、恵麻里は知らない。静音が深雪という少女を救うために、恵麻里のモニターを中断して、車の外へ出てしまったことを・・・。
もっとも、たとえ知っていたとしても、今の恵麻里には、もはや一刻も早いパートナーの助けの手を求める以外に、何ら打つ手はないだろうが・・・。
そんな恵麻里の内心を知ってか知らずか、クリスはいったんソファから立ち上がり、今度は恵麻里の脚の方向に腰を下ろした。
「!・・・・」
敵が自分に新たな辱めを加えようとしていることに気が付き、恵麻里は思わず身体をこわばらせる。ゾニアンの魔力に射すくめられ、今やクリスに対する敵愾心よりも、完全に恐怖心の方が勝っていたのだ。
そして不安の通り、クリスの白い手は、縛め束ねられた恵麻里の双脚を淫靡に撫でさすり始めた。
「あッ、イヤッ!・・・」
「ステキな脚ねェ。18歳ならではのピチピチの張り。若いってことは羨ましいわ・・・」
クリスの手が、閉じあわされた太股をこじ割るように這い昇ってくるのを感じ、恵麻里は一際大きな悲鳴を上げる。
「ダメッ!・・・そこは!・・・」
魔薬に冒されて、ひどくはしたない状態になっているらしい、自分の最も恥ずかしい部分・・・。
それを何とか死守しようと、恵麻里は身体をくねらせるが、エクスタシーに麻痺した下半身には最早ほとんど力が入らない。あっと思う間もなく、彼女のミニスカートは腰の上まで剥き上げられてしまった。
「まあまあ、こんなにタップリ溢れさせちゃって・・・」
「ああ・・・・」
絶望的な嘆息を洩らし、恵麻里は羞恥に染まった顔を仰かせた。
こんもり盛り上がった若々しい恥丘を、ふっくらとくるんでいる純白のパンティー。
その柔らかな布の中央部に湿った長円形のシミが拡がり、肌にピタリと張り付いて、
奥に息を潜めている亀裂の形をくっきり浮かび上がらせている。
ゾニアンによって心ならずも溢れ出した愛の汗が、恵麻里の下着を淫らに汚していたのだった。
「まるでオネショでもしたようよ。フフ、そんなに気持ちが良かったの?」
あざけるように言いながら、クリスは布地の湿った部分をつまんで持ち上げた。
淡い、頼りなげな叢が僅かに顔をのぞかせ、そこから甘い処女の香りが漂ってくる。
「イヤッ、見ないでッ!」
「そうはいかないわ。ここが商品の一番肝心な所じゃない。未通(さら)なのかどうかもちゃんと確かめないとね」
「そ、そんな・・・あッ!・・・」
クリスは恵麻里の足首を束ねているバンドに手をかけ、グイと上に持ち上げた。
脱力しきった両脚は上体の方へとガニ股型に折り畳まれ、濡れた下腹部がアッと言う間にあからさまにされてしまう。そして魔女の白い指は、つまみ上げられた下着の隙間からまるで蛇のように這い込み、媚肉の溝をなぞるように蠢き始めた。
チュッ・・・ヌチュッ・・チュッ・・・・
「あくぁッ!・・・」
脊髄を殴りつけるような暗い悦びが走り、恵麻里は悲鳴と共に身体を揺する。
恥門の縁一杯に溜まっていた滑らかな蜜がドッとあふれ出し、差し込まれた指に沿って幾筋もキラキラと糸を引いた。
「パックリ割れちゃってェ・・・フフ、いよいよ奥の院よ・・・」
「お願い、許して・・・」
自らの淫らな生理を思い知らされる屈辱で、今やほとんどしゃくりあげるようにして哀訴する恵麻里には構わず、クリスは右手の中指と人差し指で、弾力のある肉のふくらみを左右に押し開いていった。
「見えたわよォ。・・・なんて、綺麗・・・・」
妙にしみじみとした声で言い、クリスはその部位をじっくりと味わおうとするかのように、恵麻里の股間に顔を寄せる。
眼下に、薄ピンク色の肉果がツヤツヤとむき出しにされていた。そしてふっくらと盛り上がった皮膜の頂付近に、小さな裂け目が、濡れてヒクヒクとその入り口を震わせている。
恵麻里の成熟した女体が、しかし未だ無垢のままであるという、まさにその証であった。
「感心感心・・・最近の若い娘に似合わず、安直に男と交尾(さか)ったりはしていないわけね」
クリスはニンマリと口の端を歪め、
「それでなくっちゃいけないわ。売られた先で性の奴隷として仕えるにしても、恥じらいと貞淑さは絶対に必要だからね。・・・『マーメイド(人魚)』・・・商品に仕立てた女の子のことを私たちはそう呼んでいるんだけれど、まさに水の妖精の様な気品が求められるのよ。わざわざ大金をつぎ込んで、街でも買えるような安物の淫売婦を欲しがる物好きはいないものね・・・」
言いながらクリスは、狭い肉孔の縁をなぞるように指先を回す。
「あくッ!・・・」
異様な感触に、恵麻里は怯えきった声を上げて腰を引こうとするが、くの字に折られて上から押さえ込まれた身体はほとんど動かせない。
あまりの惨めさに、新たな涙が止めどなく湧いて、両鬢をテラテラと光らせた。
「でもね、売り物にするのに、このままではかえって具合が悪いわ・・・」
クリスは笑顔のまま恵麻里にぐっと上体を寄せ、ささやくように言った。
「マーメイドはね、買っていただいたお客様を喜ばせるための、あらゆる手管を身につけなきゃいけないの。そのためには、何はともあれ、その部分の『通り』を良くしておかなきゃ始まらないものね。分かるでしょう?・・・」
「そんな・・・ま、まさか・・・・」
絶望的にあえぎ、粟の立った肌を細かく震わせながら、恵麻里はクリスの白い顔を見上げる。
勝ち誇ってクックッと忍び笑いを洩らしている美しい魔女は、いつの間にかその片手にグロテスクな物を握りしめていた。
複雑にくびれ、ゆるく反り身になっている、バー状のアイテム・・・。
古くからその道の楽しみのために用いられている、男根を型どった性具であった。
もっとも形こそ旧世紀の物と変わらないが、その空色に透き通った刀身は特殊な新素材で出来ていて、女性器の中で自律的に形や硬度を変え、蠢いて、強烈な快感を導き出す仕組みになっている。いわばディルドーのハイテク版である。
クリスはその淫らな処刑具を、捕虜の無垢な急所に無情に突き通すつもりなのだ!
「や、やめて!・・やめてお願いッ!・・・」
相手の恐ろしい意図を悟った恵麻里は、背中を下に、座禅を組んだようなスタイルのまま絶叫に近い声を上げて身をよじった。むき出しにされ、熱く膨れ上がった両の乳房が、ユサユサと哀しげに波を打つ。
(こ、こんな奴等に処女を奪われるなんて・・・。う、ウソよ!これは悪夢だわ!・・・)
恵麻里にとって、つい半時間ほど前までは、その犯罪行為を暴き、狩り出す対象でしかなかった闇の組織が、今は逆に彼女を牙にかけ、ズタズタに引き裂こうとしている!自分がはまり込んだあまりにも皮肉で無惨な運命が、とても現実の事とは思えなかった。
「馬鹿ねェ、そんなに大げさに泣きわめくような事じゃないでしょう?たかが皮が一枚破けるだけじゃないの」
わざと下卑た言い方をしてみせながら、クリスは手にした張り型を素早く恵麻里の濡れた恥門へとあてがった。
「ひッ!・・・」
肉襞をヌルリとかき分けてくる処刑具を知覚し、恵麻里は思わず怯えきった声を出す。
「怖がらなくても大丈夫。ゾニアンがまだまだアソコを痺れさせているから、ほとんど痛くはないはずよ。むしろもう一度イッちゃうくらいイイ気持ちかもね・・・」
「い、イヤぁッ!お願い、そ、それだけはァ!・・・」
あえぎ、すすり上げながら恵麻里は最後の抵抗を試みるが、縛められた身体をいくら揺すっても、這い込んでくる性具をかわしようがない。寝かされたソファがギシギシと哀しい音をたてた。
(し、静音ッ、助けに来てッ!・・・今すぐ来てくれないと、私、取り返しのつかない身体にされてしまう!・・・ああ、お願いよッ!・・・)
藁にもすがる思いで静音に呼びかける恵麻里の心中の叫びに、クリスの押し殺した声音が、まるで死刑宣告のように覆い被さる。
「さあいくわよ、可愛い『乙女』探偵さん・・・」
言うと同時にクリスの手が大きく動き、弾力のある槍が一気に恵麻里の花奥を貫き破った!
「イひぎャああああーッ!・・・」
獣のような絶叫と共に、汗と涙にまみれた恵麻里の裸身が、ソファの上で二度、三度と大きく跳ね悶える。涙が飛沫となって、見開かれた目から無数に宙へ舞い散った。
「これであなたは『ただの』可愛い探偵さんてわけね。ウフフフ・・・成人の瞬間をどうぞじっくりと味わいなさいな・・・・」
引き裂かれる一瞬の激痛!・・・そしてその後に、目がくらむほどの強烈な快感がドッと膣内へ押し寄せてくるのを感じた時、狩るべき召還組織によって自らが贄と化してしまった哀れな少女探偵の意識は、絶望の暗闇に引きずり込まれるかのように果てしなく沈んでいった・・・・。
恵麻里は縛められたままの身体をソファの上で弛緩させ、間欠的に襲ってくる官能の余波に小さな呻き声を上げ続けていた。
クリスの言った通り、悪魔の媚薬ゾニアンによって、恵麻里はものの二分と経たないうちに激しい絶頂へと導かれてしまったのである。それも立て続けに二度も!・・・。
(ああ、どうしてこんなことに!・・・・)
噛みしめた口元から、絶望を込めた吐息がこぼれ出る。
羞恥と屈辱、そして恐怖がないまぜとなり、頭の中はパニック寸前だった。
他人の、それも忌まわしい敵である犯罪者の眼前で、生まれて初めて女としての快楽の高みへ追い上げられてしまったことが、恵麻里の自信とプライドをずたずたにしていたのである。
時折突き上げてくる甘いオルガの余韻に、はだけられた胸元がピクンピクンと上下する様子が、いかにも瀕死の獲物を思わせて哀れであった。
「どう?ステキだったでしょう?」
クリスは寝かされた恵麻里の頭側に腰を下ろし、顔を背けてじっと涙をこらえている少女探偵の顎を巻き取るように腕を回した。
「あ・・・」
思わずあえぎ、身をすくませる。
首筋に触れられただけで、その部分が再びジーンと官能の熱を持ってくるのが分かった。
「あんなに清純ぶってすましていたくせに、気持ち良くってもがくわ喚くわ、大騒ぎだったじゃない。フフ、一皮むいてみれば、とんだ淫売娘ねェ・・・」
「・・・・」
「淫売」という下品な揶揄が、自尊心をザクリとえぐる。しかし浅ましく性に悶える姿を見られてしまった以上、恵麻里は言い返すことも出来ずにただうつむくしかなかった。
「ゾニアンの威力には逆らえないってことが、これで分かったでしょう?自分じゃ腕利きのS・Tのつもりでいたのかもしれないけど、今のあなたは私たちの水槽に捕らえられた小魚も同然なのよ。これからもっと存分に、身の程っていうのを思い知らせてあげる。ゆっくりと時間をかけてね・・・」
「あッ・・・」
右の乳房を包むように愛撫され、恵麻里は哀れな声を上げて身体を反り返らせた。
薄い桃色だった小さな乳首は今やどす黒く濁った血の色に変わり、その硬さとボリュームをさらにジワジワと増しつつある。クリスの掌にそこを揉みつぶすように刺激され、目のくらむような快感が体内でフラッシュのように炸裂した。
「やッ!・・ヒあッ!・・・」
歯を食いしばって呻きながら、恵麻里は何とか処刑吏の白い手から逃れようと身をくねらせる。
恐ろしい魔の薬は、未だその効力を失っていないらしい。このまま淫らな愛撫に身を任せていれば、たやすくまた、あの羞恥に満ちた絶頂へと追い込まれてしまうだろう。その恐怖心が、ついに恵麻里に悲鳴に近い哀訴の声を上げさせた。
「も、もうやめてッ!お願い、触らないでッ!」
「何言ってるの、お楽しみはまだ始まったばかりよ。ほぉら・・・」
指先が、濡れた乳首をクリクリとひねるようにつまみ上げてくる。その部分の神経が全てむき出しにされ、沸き立ったかのような、異様な恍惚感が走った。
「ああッ!」
「意地を張らずに、素直にこの快楽を楽しみなさいな。ね、恵麻里ちゃん・・・」
「ダメッ!・・や、やめ・・・あッ、アアアアぁーッ!・・・・」
魂切るような絶叫を上げ、恵麻里の身体がグーンと弓なりになる。
不安の通り、押し寄せる歓喜が、もろくもまた彼女の気を爆ぜさせてしまったのだ。
ゾニアンの猛威は、今や完全に恵麻里の若い肉体を犯し、支配して、理性によるコントロールを不能にしていた。
「あーら、イヤだイヤだと言いながら、またイッちゃったの?まったくスケベなS・Tさんねェ・・・」
「うァ・・・あ・・・・」
「さっきまでの勇ましさはどうしたの?もう一度あの『汚らわしいッ!』って啖呵を切ってみせてよ」
からかうような口調で意地悪くのぞき込むクリスを見上げながら、恵麻里は弱々しく喘いだ。
「も、もう・・許して・・・お願い・・だか・・ら・・・」
痺れるような疼きが、子宮の中でドロリと渦を巻いているのが分かる。すぐにでも次回のオルガへと成長しそうなその感覚が、恵麻里にはただ恐ろしかった。
「許す?勘違いをされちゃ困るわね。私はあなたを虐めてるわけじゃない、優しく可愛がってあげているのよ。ホントは単なる獲物に過ぎないあなたに、精一杯の敬意を表してね」
クリスは青い瞳に冷たい笑みを浮かべ、恵麻里の頬をなだめるように撫でさすった。
「それにさっきも言った通り、お楽しみはまだ始まったばかりなの。あなたを満足な『商品』に仕上げるには、もっともっと時間をかけて調教し、身体を造り替えてあげないとね・・・」
「そ、そんな・・・・」
思わず声を震わせ、恵麻里は言い募った。
「これだけ私に恥をかかせれば、もう十分でしょう?許してくれれば、もうこの『新世界準備会』からは手を引くわ。この組織の調査も、救出業務もあきらめる。だから・・・お願い・・・これ以上は・・・・」
言葉の最後は、嗚咽に近い、絞り出すような声音に変わってゆく。
心底からの許しを乞うたことで、恵麻里は自らの完全な敗北を認めたような気分になり、こらえていた涙が目尻からドッと溢れ出た。
「あらあら、泣くのはまだ早いわよ。泣かなきゃならないことは、この先まだうんとあるんだから・・・」
獲物が次第に屈服しつつあることを見て取り、クリスは満足そうに鼻を鳴らす。
「それに、この組織から手を引くだなんて遠慮がましいことは言わなくてもいいのよ。どうぞ気の済むまで『新世界準備会』を調べてちょうだい。救出業務もあきらめずにお続けなさいな。フフ、助けてほしいのは今やあなたの方でしょうけど。・・・さて、と・・・」
「あッ!・・・」
まるで新たな陵辱の幕開けを告げるかのように、クリスの手が、恵麻里の前髪を留めていたヘアバンドを抜き取った。
そしてその瞬間、恵麻里の脳裏に稲妻のように閃いたことがあった。
(そうだわ、静音!・・・あの娘は何をしているの?)
外された白いヘアバンドにマイクロ集音機が仕込まれていること、そしてそれを通して、パートナーの静音が自分の様子をモニターしていることを、恵麻里はようやく思い出したのだった。
思いもかけず囚われの身となったことに動転し、今までそのことをすっかり忘れていたのだ。
(私が敵に捕まったことは、集音機を通して分かっているはずよ!・・・ああ、早く助けに来てッ!・・・)
恵麻里がクリスに捕らえられてから、失神していた時間を考慮しなくても、すでに20分以上が経過しているはずだ。
静音が恵麻里の危機に気付いてすぐさま行動を開始しているのなら、そろそろこの場に救出に踏み込んできてもおかしくない時間だった。
しかし、恵麻里は知らない。静音が深雪という少女を救うために、恵麻里のモニターを中断して、車の外へ出てしまったことを・・・。
もっとも、たとえ知っていたとしても、今の恵麻里には、もはや一刻も早いパートナーの助けの手を求める以外に、何ら打つ手はないだろうが・・・。
そんな恵麻里の内心を知ってか知らずか、クリスはいったんソファから立ち上がり、今度は恵麻里の脚の方向に腰を下ろした。
「!・・・・」
敵が自分に新たな辱めを加えようとしていることに気が付き、恵麻里は思わず身体をこわばらせる。ゾニアンの魔力に射すくめられ、今やクリスに対する敵愾心よりも、完全に恐怖心の方が勝っていたのだ。
そして不安の通り、クリスの白い手は、縛め束ねられた恵麻里の双脚を淫靡に撫でさすり始めた。
「あッ、イヤッ!・・・」
「ステキな脚ねェ。18歳ならではのピチピチの張り。若いってことは羨ましいわ・・・」
クリスの手が、閉じあわされた太股をこじ割るように這い昇ってくるのを感じ、恵麻里は一際大きな悲鳴を上げる。
「ダメッ!・・・そこは!・・・」
魔薬に冒されて、ひどくはしたない状態になっているらしい、自分の最も恥ずかしい部分・・・。
それを何とか死守しようと、恵麻里は身体をくねらせるが、エクスタシーに麻痺した下半身には最早ほとんど力が入らない。あっと思う間もなく、彼女のミニスカートは腰の上まで剥き上げられてしまった。
「まあまあ、こんなにタップリ溢れさせちゃって・・・」
「ああ・・・・」
絶望的な嘆息を洩らし、恵麻里は羞恥に染まった顔を仰かせた。
こんもり盛り上がった若々しい恥丘を、ふっくらとくるんでいる純白のパンティー。
その柔らかな布の中央部に湿った長円形のシミが拡がり、肌にピタリと張り付いて、
奥に息を潜めている亀裂の形をくっきり浮かび上がらせている。
ゾニアンによって心ならずも溢れ出した愛の汗が、恵麻里の下着を淫らに汚していたのだった。
「まるでオネショでもしたようよ。フフ、そんなに気持ちが良かったの?」
あざけるように言いながら、クリスは布地の湿った部分をつまんで持ち上げた。
淡い、頼りなげな叢が僅かに顔をのぞかせ、そこから甘い処女の香りが漂ってくる。
「イヤッ、見ないでッ!」
「そうはいかないわ。ここが商品の一番肝心な所じゃない。未通(さら)なのかどうかもちゃんと確かめないとね」
「そ、そんな・・・あッ!・・・」
クリスは恵麻里の足首を束ねているバンドに手をかけ、グイと上に持ち上げた。
脱力しきった両脚は上体の方へとガニ股型に折り畳まれ、濡れた下腹部がアッと言う間にあからさまにされてしまう。そして魔女の白い指は、つまみ上げられた下着の隙間からまるで蛇のように這い込み、媚肉の溝をなぞるように蠢き始めた。
チュッ・・・ヌチュッ・・チュッ・・・・
「あくぁッ!・・・」
脊髄を殴りつけるような暗い悦びが走り、恵麻里は悲鳴と共に身体を揺する。
恥門の縁一杯に溜まっていた滑らかな蜜がドッとあふれ出し、差し込まれた指に沿って幾筋もキラキラと糸を引いた。
「パックリ割れちゃってェ・・・フフ、いよいよ奥の院よ・・・」
「お願い、許して・・・」
自らの淫らな生理を思い知らされる屈辱で、今やほとんどしゃくりあげるようにして哀訴する恵麻里には構わず、クリスは右手の中指と人差し指で、弾力のある肉のふくらみを左右に押し開いていった。
「見えたわよォ。・・・なんて、綺麗・・・・」
妙にしみじみとした声で言い、クリスはその部位をじっくりと味わおうとするかのように、恵麻里の股間に顔を寄せる。
眼下に、薄ピンク色の肉果がツヤツヤとむき出しにされていた。そしてふっくらと盛り上がった皮膜の頂付近に、小さな裂け目が、濡れてヒクヒクとその入り口を震わせている。
恵麻里の成熟した女体が、しかし未だ無垢のままであるという、まさにその証であった。
「感心感心・・・最近の若い娘に似合わず、安直に男と交尾(さか)ったりはしていないわけね」
クリスはニンマリと口の端を歪め、
「それでなくっちゃいけないわ。売られた先で性の奴隷として仕えるにしても、恥じらいと貞淑さは絶対に必要だからね。・・・『マーメイド(人魚)』・・・商品に仕立てた女の子のことを私たちはそう呼んでいるんだけれど、まさに水の妖精の様な気品が求められるのよ。わざわざ大金をつぎ込んで、街でも買えるような安物の淫売婦を欲しがる物好きはいないものね・・・」
言いながらクリスは、狭い肉孔の縁をなぞるように指先を回す。
「あくッ!・・・」
異様な感触に、恵麻里は怯えきった声を上げて腰を引こうとするが、くの字に折られて上から押さえ込まれた身体はほとんど動かせない。
あまりの惨めさに、新たな涙が止めどなく湧いて、両鬢をテラテラと光らせた。
「でもね、売り物にするのに、このままではかえって具合が悪いわ・・・」
クリスは笑顔のまま恵麻里にぐっと上体を寄せ、ささやくように言った。
「マーメイドはね、買っていただいたお客様を喜ばせるための、あらゆる手管を身につけなきゃいけないの。そのためには、何はともあれ、その部分の『通り』を良くしておかなきゃ始まらないものね。分かるでしょう?・・・」
「そんな・・・ま、まさか・・・・」
絶望的にあえぎ、粟の立った肌を細かく震わせながら、恵麻里はクリスの白い顔を見上げる。
勝ち誇ってクックッと忍び笑いを洩らしている美しい魔女は、いつの間にかその片手にグロテスクな物を握りしめていた。
複雑にくびれ、ゆるく反り身になっている、バー状のアイテム・・・。
古くからその道の楽しみのために用いられている、男根を型どった性具であった。
もっとも形こそ旧世紀の物と変わらないが、その空色に透き通った刀身は特殊な新素材で出来ていて、女性器の中で自律的に形や硬度を変え、蠢いて、強烈な快感を導き出す仕組みになっている。いわばディルドーのハイテク版である。
クリスはその淫らな処刑具を、捕虜の無垢な急所に無情に突き通すつもりなのだ!
「や、やめて!・・やめてお願いッ!・・・」
相手の恐ろしい意図を悟った恵麻里は、背中を下に、座禅を組んだようなスタイルのまま絶叫に近い声を上げて身をよじった。むき出しにされ、熱く膨れ上がった両の乳房が、ユサユサと哀しげに波を打つ。
(こ、こんな奴等に処女を奪われるなんて・・・。う、ウソよ!これは悪夢だわ!・・・)
恵麻里にとって、つい半時間ほど前までは、その犯罪行為を暴き、狩り出す対象でしかなかった闇の組織が、今は逆に彼女を牙にかけ、ズタズタに引き裂こうとしている!自分がはまり込んだあまりにも皮肉で無惨な運命が、とても現実の事とは思えなかった。
「馬鹿ねェ、そんなに大げさに泣きわめくような事じゃないでしょう?たかが皮が一枚破けるだけじゃないの」
わざと下卑た言い方をしてみせながら、クリスは手にした張り型を素早く恵麻里の濡れた恥門へとあてがった。
「ひッ!・・・」
肉襞をヌルリとかき分けてくる処刑具を知覚し、恵麻里は思わず怯えきった声を出す。
「怖がらなくても大丈夫。ゾニアンがまだまだアソコを痺れさせているから、ほとんど痛くはないはずよ。むしろもう一度イッちゃうくらいイイ気持ちかもね・・・」
「い、イヤぁッ!お願い、そ、それだけはァ!・・・」
あえぎ、すすり上げながら恵麻里は最後の抵抗を試みるが、縛められた身体をいくら揺すっても、這い込んでくる性具をかわしようがない。寝かされたソファがギシギシと哀しい音をたてた。
(し、静音ッ、助けに来てッ!・・・今すぐ来てくれないと、私、取り返しのつかない身体にされてしまう!・・・ああ、お願いよッ!・・・)
藁にもすがる思いで静音に呼びかける恵麻里の心中の叫びに、クリスの押し殺した声音が、まるで死刑宣告のように覆い被さる。
「さあいくわよ、可愛い『乙女』探偵さん・・・」
言うと同時にクリスの手が大きく動き、弾力のある槍が一気に恵麻里の花奥を貫き破った!
「イひぎャああああーッ!・・・」
獣のような絶叫と共に、汗と涙にまみれた恵麻里の裸身が、ソファの上で二度、三度と大きく跳ね悶える。涙が飛沫となって、見開かれた目から無数に宙へ舞い散った。
「これであなたは『ただの』可愛い探偵さんてわけね。ウフフフ・・・成人の瞬間をどうぞじっくりと味わいなさいな・・・・」
引き裂かれる一瞬の激痛!・・・そしてその後に、目がくらむほどの強烈な快感がドッと膣内へ押し寄せてくるのを感じた時、狩るべき召還組織によって自らが贄と化してしまった哀れな少女探偵の意識は、絶望の暗闇に引きずり込まれるかのように果てしなく沈んでいった・・・・。
煉獄都市 第4章 恵麻里絶叫! 戦慄の魔法医師(マレフィカス)(1)
青井慎也は、彼の事務所が入っているビルの地下駐車場へ降り、そこに停めてある愛車にもたれて、何かを待っているかのようにイライラと身体を揺すっていた。
車は2021年製の黒いルノー・ハイブリッド。
彼が独立開業する以前から使用している物なのだが、共に死線をくぐった、戦友とも言うべきこの老朽車を、慎也はなかなか処分出来ずにいる。
それにこのルノーは父が乗っていた物と同型車で、シートに座っていると、何となく父の顔を思い出せるような気がするのだ。
しかし、優しく快活だった父も、そして母も、もうこの世にはいない。この国をズタズタにしたあの忌まわしい地震が、幼い慎也から両親を同時に奪ってしまったのだ。
その時以来、長く孤独の中で生きてきた自分だけに、一時は兄妹のように暮らした恵麻里を失いたくはなかった。愛しているということとは別に、その思いだけが、半ば強迫的に彼の胸を占めていた。
チチチチチチ・・・・・
左腕のコミュニケーターがささやくように鳴り、呼び出しランプが明滅する。慎也はスイッチを入れ、表示キューブを目の前にかざした。
「・・・・・」
キューブの中に、細かい緑の文字や地図などが超高速で配列されてゆく。
何者かが送信してきたそれらのデータこそ、慎也の待っていたものだった。
「フン、思いの外、時間がかかったな・・・」
愚痴めいた独り言を洩らしてコミュニケーターの通話を切り、慎也は表示基部に青く浮き出ているデジタル数字をチラリと眺めた。
・・・時刻は間もなく、午後二時を回ろうとしている。
彼はルノーに乗り込み、勢い良く駐車場を出た。車は真っ直ぐに、都心部へと向かうハイウェイの最寄りランプ(出入口)を目指していた。
車は2021年製の黒いルノー・ハイブリッド。
彼が独立開業する以前から使用している物なのだが、共に死線をくぐった、戦友とも言うべきこの老朽車を、慎也はなかなか処分出来ずにいる。
それにこのルノーは父が乗っていた物と同型車で、シートに座っていると、何となく父の顔を思い出せるような気がするのだ。
しかし、優しく快活だった父も、そして母も、もうこの世にはいない。この国をズタズタにしたあの忌まわしい地震が、幼い慎也から両親を同時に奪ってしまったのだ。
その時以来、長く孤独の中で生きてきた自分だけに、一時は兄妹のように暮らした恵麻里を失いたくはなかった。愛しているということとは別に、その思いだけが、半ば強迫的に彼の胸を占めていた。
チチチチチチ・・・・・
左腕のコミュニケーターがささやくように鳴り、呼び出しランプが明滅する。慎也はスイッチを入れ、表示キューブを目の前にかざした。
「・・・・・」
キューブの中に、細かい緑の文字や地図などが超高速で配列されてゆく。
何者かが送信してきたそれらのデータこそ、慎也の待っていたものだった。
「フン、思いの外、時間がかかったな・・・」
愚痴めいた独り言を洩らしてコミュニケーターの通話を切り、慎也は表示基部に青く浮き出ているデジタル数字をチラリと眺めた。
・・・時刻は間もなく、午後二時を回ろうとしている。
彼はルノーに乗り込み、勢い良く駐車場を出た。車は真っ直ぐに、都心部へと向かうハイウェイの最寄りランプ(出入口)を目指していた。
煉獄都市 第4章 恵麻里絶叫! 戦慄の魔法医師(マレフィカス)(2)
「んッ・・うン・・・・」
恵麻里はようやく意識の暗闇から浮かび上がり、小さく呻きながら目をしばたたいた。
身体の下に、ヒヤリとした冷たい感触がある。
目の前には、消灯された医療用の巨大なライト。薄暗い周囲には、用途の分からない電子機器が所狭しと並べられているのが見える。
そこはやはり「サンクチュアリ」の内部であるらしかったが、さっきまで彼女がいた部屋とは明らかに違っていた。
静まり返った室内には、寝かされた恵麻里以外に人の気配はない。
「あッ!・・・・」
自分の身体の状況に気付き、恵麻里は思わず耳までを赤く染めて大きな声を上げる。
ブラジャーもパンティーも、全てを剥ぎ取られ、全裸にされていた。
彼女が寝かされているのは黒いビニールレザーに覆われた背の高い寝台で、その四隅からはガッシリとした関節付きの金具が放射状に伸びている。
要するに産婦人科医が用いる診察台と同じ構造の寝椅子で、恵麻里の四肢は四つの金具にそれぞれベルトで繋ぎ止められ、大きく開かされていた。
(よくも・・・よくもこんな!・・・・)
羞恥の部分を全くあからさまにされた惨めなポーズに、思わず悔し涙がにじむ。同時に、自分の身に加えられた悪夢のような陵辱がまざまざと思い出されてきた。
(私・・・もうバージンではないのね・・・・)
自分から決別を告げた青井慎也以外に純血を捧げたい相手がいたわけではなかったが、敵である犯罪組織に無理矢理散らされてよいはずのものでも勿論ない。恵麻里の心に、黒々とした絶望と後悔の念が渦を巻いた。
ほんの僅かな油断と慢心から、まさにミイラ取りがミイラとなってしまったのだ。
(だけど、処女を奪われただけならまだしも、性の商品として売られてゆくなんて絶対にイヤだ!何とかしてここから逃げ出さなければ!・・・)
必死に首をひねり、何か脱出の手がかりになるものはないかと周囲に目を凝らす。
「あ・・・」
思わず小さな声が出た。
周りに並んだ電子機器のいくつかには灯がともっていて、そのうちの一つに時計機能らしいデジタル表示が明滅しているのだ。
表示は「14:31」と時を刻んでいた。
(・・・私が最初に気絶させられてから、2時間と経ってはいない・・・。だけど、静音は何をしているの?もし異常を感じていたら、とっくに助けに来なければおかしい時間だわ。・・・モニター装置に故障があったのか、それとも・・・・)
静音がやむなくモニターを中断してしまったことを知らない恵麻里は、パートナーの不手際を一瞬呪う気持ちになった。そして、静音のあの気弱な性格からして、犯罪組織へ突入することに怖じ気付いたのではないかと、チラリと想像した。
親友を疑うのは気が引けたが、何しろ静音には実際に悪漢と渡り合った経験がないのだ。
そして、不可解なことは他にもあった。
そもそも恵麻里があっけなく捕虜となってしまったのは、彼女の正体が、最初から「新世界準備会」にバレていたからだ。
彼女の顔形や、そして調査に乗り込んできたS・Tであることまでも、あのクリス・宮崎には、何故か先刻承知済みだったのである。
(私の事を、この組織に密告した奴がいるんだわ。それは誰なの?一体何の目的で?・・・私に恨みを持つ者の復讐?・・・)
プライベートならともかく、仕事がらみならば、大勢から恨みを買ってもおかしくはない。恵麻里の救出業務によって美味しい商売を妨害された悪党は、それこそ何人もいるからだ。
しかしそれが具体的に誰かとなると、皆目見当もつかなかった。
今の恵麻里に分かるのは、そいつが許しがたい卑怯者であり、ここを抜け出せたあかつきには、必ず探し出して叩きのめしてやらなければならないという事だけだった。
と、その時・・・。
空気がかすかに動き、何者かが室内に入ってきたのが分かった。恵麻里は思わず、磔にされた裸身をこわばらせた。
「ほほォー、目が覚めとったのかね?・・・」
恵麻里の足下の方にあるドアを開け、室内灯を点けたのは、あのクリスではなく、白衣を着た老人であった。
(この人、確か・・・)
ボサボサの白髪を肩まで垂らしたその風貌に、恵麻里は見覚えがあった。
「ワシはアゲット。カルビン・アゲット。・・・この『サンクチュアリ』の医療顧問じゃよ」
(やっぱり、あの男だわ・・・)
施設の一階にある屋内プールで、会員達に何事か指示をしていた、(クリスによれば)科学者だという老人。・・・この男もやはり、卑劣な犯罪組織の一員だったのだ!
「こッ、こっちへ来ないでッ!」
笑顔で近づいてくるアゲットに対し、恵麻里は叫ぶように言って身をすくませる。
大股開きに固定され、女体の急所を完全にさらけ出している下半身の前に立たれることは、処女を失ったばかりの少女にとって、まさに消え入りたくなるような恥辱であった。
「何も恥ずかしがることはないさ」
アゲットはニヤリと笑い、乱杭歯ををむき出しにした。
年齢は、もう70才近くだろうか。縦横に皺の寄った顔は、遠目に見たときよりもはるかに老け込んで見える。
「こう見えてもワシは医者じゃよ。職業柄、若い娘のあられもない姿を見ても、おかしな気を起こしたりはせんのさ」
「フン、医者が聞いて呆れるわね」
油断なくアゲットを見据えたまま、恵麻里は強い口調で言った。
「人さらいを商売にしている悪党のくせに!あの勿体ぶった健康法だって、どうせ女の子をおびき寄せるためのデタラメなんでしょう!」
「とんでもない濡れ衣じゃな・・・」
と、アゲットは苦笑して、
「『アクア(水法)』は、ワシが長年かかって組み立てた、正真正銘の健康法じゃ。只のデタラメに、あれほど人が集まるわけがないじゃろう?それにワシは、別に金が欲しくて『召喚』稼業に手を貸しとるわけじゃない。要するに、学問的探求心というやつからなんじゃよ・・・」
「何のことだか分からないわね」
恵麻里は言い募った。
「女性を拐かして、性の商品に仕立てているのは事実じゃない!それも非合法の麻薬まで使って!」
「ワシ自身は、薬にも興味は無いよ」
言いながらアゲットは、寝かされた恵麻里の顔のそばに立った。
「まあ、そう硬くなりなさんな。あのクリスに相当意地悪く責められたようだから、警戒したくなる気持ちは分かるがね・・・」
「・・・・・」
「あの女は全くイカれたサディストでな。他人をネチネチと虐めている時だけが幸せなんじゃ。だからこの商売は、あれにとっては趣味と実益を兼ねとるわけじゃよ。・・・まあワシも、別の意味でそうじゃがな・・・」
「別の意味?・・・」
「言ったじゃろう?ワシはお前さん達『ゲーム(獲物)』に、医者としての興味しかない。何しろワシは、こっちの方がてんでダメでな・・・」
心持ち照れ臭そうに言いながら、アゲットは白衣の上から股間を押さえつけてみせた。
「年齢のせいというわけじゃない。原因は分からんが、若い時分からそうなんじゃ。だから仮にお前さん達にイタズラをしようとしても出来ないってわけさ・・・」
「そ、それならなおさら・・・」
恵麻里はそれまでの敵愾心に凝り固まった表情を引っ込め、すがるような声音で言った。
「この縛めを解いて、私に着る物をちょうだい。それに出来ることなら、ここから私を逃がして。もうこの組織には関わらないと約束するから・・・」
無論恵麻里とて、そんな虫の良い懇願が直ちに聞き入れられると期待したわけではない。しかし、あの一片の人情も持ち合わせていないようなクリスに比べ、この老医師には、ダメもとでも許しを乞うてみる気にさせる、物腰の柔らかさが感じられたのだ。犯罪者にこう言うのもおかしな話だが、何となく「話せば分かる」ような気がしたのである。しかし・・・。
「バカなことを言っちゃイカンよ、お嬢ちゃん」
恵麻里のはかない期待をあざ笑うかのように、アゲット医師は言った。
「勘違いをされちゃ困るね。そりゃことさらに手ひどく扱うつもりはないが、あんたが我が組織の『獲物』であることには違いないんじゃよ。そしてワシの仕事は、その『獲物』を立派な商品に加工することなんじゃ。その作業こそが、医者としてのワシの楽しみなんじゃよ」
「こ、これ以上、私に何をする気なの?」
アゲットの意味不明な物言いに、恵麻里は不安げに身じろぎをした。
「何をする?いや、ワシの仕事はもう終わった後じゃよ。ワシはその仕事の仕上がり具合を確認しに来たんじゃ」
「な、何ですって?」
意表を突かれ、すっかり狼狽えた声で恵麻里は叫んだ。
彼女が最後に意識を失ってから、まだ一時間少々が過ぎたばかりのはずだ。そんな僅かな間に、この老人は恵麻里に何をしたというのか?
自ら不能者だと明かしているのだから、陵辱をされたのではなさそうだ。ではしかし、何を?・・・・
「フォフォ・・・医者のワシがやることといえば見当がつくじゃろうが・・・」
恵麻里の内心の疑問と不安を見透かしたかのように、アゲットは笑い声を立てた。
「オペ(手術)じゃよ。お前さんの身体に、十分程で済む、チョイとしたオペを施させてもらったんじゃ」
「お、オペって?・・・」
仰天し、恵麻里は自らの縛められた身体を眺め降ろした。しかし輝くような裸身には、一見したところ、傷ついたり出血したりしている部位は見当たらない。
「心配せんでも、お前さんの身体を切り刻んだりする類(たぐい)の手術ではないよ。大事な売り物にいらぬ傷を付けるわけがないじゃろうが」
「わ、私に何をしたのよッ?」
恵麻里の声がヒステリックに跳ね上がる。正体不明の恐怖感が、じわじわと心中にこみ上げてきつつあった。
「フォフォ・・・お前さんの身体には、ミクロスケールでメスを入れさせてもらった。痛くもなければ、血も出やせんわい。もっとも、身体を動かされたりしては困るから、下半身だけは完全に麻酔させてもらったがね・・・」
そう言われて恵麻里は、自分の身体に起こっている異常に、初めて気がついた。
腰から下に全く感覚が無く、両脚は指一本にいたるまでピクリとも動かせない。
四肢を繋ぎ止められているための不自由だとばかり思っていたが、実際は薬によって神経が麻痺させられていたのだ。どうりで破瓜の疼痛が微塵も残っていないはずであった。
「麻酔はごく短時間用のものじゃから、もうじきに覚めるよ。その頃合をみて、こうしてやって来たんじゃ。同時に手術の効果も、そろそろてきめんに現れてくるはずじゃからのォ。フォーッ、フォフォフォフォ・・・・」
身体を揺すって不気味な笑い声を立て始めた老医師を、恵麻里は言葉もなく、恐怖に凍り付いた面もちで凝視した。
彼の濁った瞳の奥で、次第にその輝きを強くしつつあるもの・・・。
それはまぎれもなく、理性の歯止めを完全に失った、狂気そのものの色だったからである・・・。
恵麻里はようやく意識の暗闇から浮かび上がり、小さく呻きながら目をしばたたいた。
身体の下に、ヒヤリとした冷たい感触がある。
目の前には、消灯された医療用の巨大なライト。薄暗い周囲には、用途の分からない電子機器が所狭しと並べられているのが見える。
そこはやはり「サンクチュアリ」の内部であるらしかったが、さっきまで彼女がいた部屋とは明らかに違っていた。
静まり返った室内には、寝かされた恵麻里以外に人の気配はない。
「あッ!・・・・」
自分の身体の状況に気付き、恵麻里は思わず耳までを赤く染めて大きな声を上げる。
ブラジャーもパンティーも、全てを剥ぎ取られ、全裸にされていた。
彼女が寝かされているのは黒いビニールレザーに覆われた背の高い寝台で、その四隅からはガッシリとした関節付きの金具が放射状に伸びている。
要するに産婦人科医が用いる診察台と同じ構造の寝椅子で、恵麻里の四肢は四つの金具にそれぞれベルトで繋ぎ止められ、大きく開かされていた。
(よくも・・・よくもこんな!・・・・)
羞恥の部分を全くあからさまにされた惨めなポーズに、思わず悔し涙がにじむ。同時に、自分の身に加えられた悪夢のような陵辱がまざまざと思い出されてきた。
(私・・・もうバージンではないのね・・・・)
自分から決別を告げた青井慎也以外に純血を捧げたい相手がいたわけではなかったが、敵である犯罪組織に無理矢理散らされてよいはずのものでも勿論ない。恵麻里の心に、黒々とした絶望と後悔の念が渦を巻いた。
ほんの僅かな油断と慢心から、まさにミイラ取りがミイラとなってしまったのだ。
(だけど、処女を奪われただけならまだしも、性の商品として売られてゆくなんて絶対にイヤだ!何とかしてここから逃げ出さなければ!・・・)
必死に首をひねり、何か脱出の手がかりになるものはないかと周囲に目を凝らす。
「あ・・・」
思わず小さな声が出た。
周りに並んだ電子機器のいくつかには灯がともっていて、そのうちの一つに時計機能らしいデジタル表示が明滅しているのだ。
表示は「14:31」と時を刻んでいた。
(・・・私が最初に気絶させられてから、2時間と経ってはいない・・・。だけど、静音は何をしているの?もし異常を感じていたら、とっくに助けに来なければおかしい時間だわ。・・・モニター装置に故障があったのか、それとも・・・・)
静音がやむなくモニターを中断してしまったことを知らない恵麻里は、パートナーの不手際を一瞬呪う気持ちになった。そして、静音のあの気弱な性格からして、犯罪組織へ突入することに怖じ気付いたのではないかと、チラリと想像した。
親友を疑うのは気が引けたが、何しろ静音には実際に悪漢と渡り合った経験がないのだ。
そして、不可解なことは他にもあった。
そもそも恵麻里があっけなく捕虜となってしまったのは、彼女の正体が、最初から「新世界準備会」にバレていたからだ。
彼女の顔形や、そして調査に乗り込んできたS・Tであることまでも、あのクリス・宮崎には、何故か先刻承知済みだったのである。
(私の事を、この組織に密告した奴がいるんだわ。それは誰なの?一体何の目的で?・・・私に恨みを持つ者の復讐?・・・)
プライベートならともかく、仕事がらみならば、大勢から恨みを買ってもおかしくはない。恵麻里の救出業務によって美味しい商売を妨害された悪党は、それこそ何人もいるからだ。
しかしそれが具体的に誰かとなると、皆目見当もつかなかった。
今の恵麻里に分かるのは、そいつが許しがたい卑怯者であり、ここを抜け出せたあかつきには、必ず探し出して叩きのめしてやらなければならないという事だけだった。
と、その時・・・。
空気がかすかに動き、何者かが室内に入ってきたのが分かった。恵麻里は思わず、磔にされた裸身をこわばらせた。
「ほほォー、目が覚めとったのかね?・・・」
恵麻里の足下の方にあるドアを開け、室内灯を点けたのは、あのクリスではなく、白衣を着た老人であった。
(この人、確か・・・)
ボサボサの白髪を肩まで垂らしたその風貌に、恵麻里は見覚えがあった。
「ワシはアゲット。カルビン・アゲット。・・・この『サンクチュアリ』の医療顧問じゃよ」
(やっぱり、あの男だわ・・・)
施設の一階にある屋内プールで、会員達に何事か指示をしていた、(クリスによれば)科学者だという老人。・・・この男もやはり、卑劣な犯罪組織の一員だったのだ!
「こッ、こっちへ来ないでッ!」
笑顔で近づいてくるアゲットに対し、恵麻里は叫ぶように言って身をすくませる。
大股開きに固定され、女体の急所を完全にさらけ出している下半身の前に立たれることは、処女を失ったばかりの少女にとって、まさに消え入りたくなるような恥辱であった。
「何も恥ずかしがることはないさ」
アゲットはニヤリと笑い、乱杭歯ををむき出しにした。
年齢は、もう70才近くだろうか。縦横に皺の寄った顔は、遠目に見たときよりもはるかに老け込んで見える。
「こう見えてもワシは医者じゃよ。職業柄、若い娘のあられもない姿を見ても、おかしな気を起こしたりはせんのさ」
「フン、医者が聞いて呆れるわね」
油断なくアゲットを見据えたまま、恵麻里は強い口調で言った。
「人さらいを商売にしている悪党のくせに!あの勿体ぶった健康法だって、どうせ女の子をおびき寄せるためのデタラメなんでしょう!」
「とんでもない濡れ衣じゃな・・・」
と、アゲットは苦笑して、
「『アクア(水法)』は、ワシが長年かかって組み立てた、正真正銘の健康法じゃ。只のデタラメに、あれほど人が集まるわけがないじゃろう?それにワシは、別に金が欲しくて『召喚』稼業に手を貸しとるわけじゃない。要するに、学問的探求心というやつからなんじゃよ・・・」
「何のことだか分からないわね」
恵麻里は言い募った。
「女性を拐かして、性の商品に仕立てているのは事実じゃない!それも非合法の麻薬まで使って!」
「ワシ自身は、薬にも興味は無いよ」
言いながらアゲットは、寝かされた恵麻里の顔のそばに立った。
「まあ、そう硬くなりなさんな。あのクリスに相当意地悪く責められたようだから、警戒したくなる気持ちは分かるがね・・・」
「・・・・・」
「あの女は全くイカれたサディストでな。他人をネチネチと虐めている時だけが幸せなんじゃ。だからこの商売は、あれにとっては趣味と実益を兼ねとるわけじゃよ。・・・まあワシも、別の意味でそうじゃがな・・・」
「別の意味?・・・」
「言ったじゃろう?ワシはお前さん達『ゲーム(獲物)』に、医者としての興味しかない。何しろワシは、こっちの方がてんでダメでな・・・」
心持ち照れ臭そうに言いながら、アゲットは白衣の上から股間を押さえつけてみせた。
「年齢のせいというわけじゃない。原因は分からんが、若い時分からそうなんじゃ。だから仮にお前さん達にイタズラをしようとしても出来ないってわけさ・・・」
「そ、それならなおさら・・・」
恵麻里はそれまでの敵愾心に凝り固まった表情を引っ込め、すがるような声音で言った。
「この縛めを解いて、私に着る物をちょうだい。それに出来ることなら、ここから私を逃がして。もうこの組織には関わらないと約束するから・・・」
無論恵麻里とて、そんな虫の良い懇願が直ちに聞き入れられると期待したわけではない。しかし、あの一片の人情も持ち合わせていないようなクリスに比べ、この老医師には、ダメもとでも許しを乞うてみる気にさせる、物腰の柔らかさが感じられたのだ。犯罪者にこう言うのもおかしな話だが、何となく「話せば分かる」ような気がしたのである。しかし・・・。
「バカなことを言っちゃイカンよ、お嬢ちゃん」
恵麻里のはかない期待をあざ笑うかのように、アゲット医師は言った。
「勘違いをされちゃ困るね。そりゃことさらに手ひどく扱うつもりはないが、あんたが我が組織の『獲物』であることには違いないんじゃよ。そしてワシの仕事は、その『獲物』を立派な商品に加工することなんじゃ。その作業こそが、医者としてのワシの楽しみなんじゃよ」
「こ、これ以上、私に何をする気なの?」
アゲットの意味不明な物言いに、恵麻里は不安げに身じろぎをした。
「何をする?いや、ワシの仕事はもう終わった後じゃよ。ワシはその仕事の仕上がり具合を確認しに来たんじゃ」
「な、何ですって?」
意表を突かれ、すっかり狼狽えた声で恵麻里は叫んだ。
彼女が最後に意識を失ってから、まだ一時間少々が過ぎたばかりのはずだ。そんな僅かな間に、この老人は恵麻里に何をしたというのか?
自ら不能者だと明かしているのだから、陵辱をされたのではなさそうだ。ではしかし、何を?・・・・
「フォフォ・・・医者のワシがやることといえば見当がつくじゃろうが・・・」
恵麻里の内心の疑問と不安を見透かしたかのように、アゲットは笑い声を立てた。
「オペ(手術)じゃよ。お前さんの身体に、十分程で済む、チョイとしたオペを施させてもらったんじゃ」
「お、オペって?・・・」
仰天し、恵麻里は自らの縛められた身体を眺め降ろした。しかし輝くような裸身には、一見したところ、傷ついたり出血したりしている部位は見当たらない。
「心配せんでも、お前さんの身体を切り刻んだりする類(たぐい)の手術ではないよ。大事な売り物にいらぬ傷を付けるわけがないじゃろうが」
「わ、私に何をしたのよッ?」
恵麻里の声がヒステリックに跳ね上がる。正体不明の恐怖感が、じわじわと心中にこみ上げてきつつあった。
「フォフォ・・・お前さんの身体には、ミクロスケールでメスを入れさせてもらった。痛くもなければ、血も出やせんわい。もっとも、身体を動かされたりしては困るから、下半身だけは完全に麻酔させてもらったがね・・・」
そう言われて恵麻里は、自分の身体に起こっている異常に、初めて気がついた。
腰から下に全く感覚が無く、両脚は指一本にいたるまでピクリとも動かせない。
四肢を繋ぎ止められているための不自由だとばかり思っていたが、実際は薬によって神経が麻痺させられていたのだ。どうりで破瓜の疼痛が微塵も残っていないはずであった。
「麻酔はごく短時間用のものじゃから、もうじきに覚めるよ。その頃合をみて、こうしてやって来たんじゃ。同時に手術の効果も、そろそろてきめんに現れてくるはずじゃからのォ。フォーッ、フォフォフォフォ・・・・」
身体を揺すって不気味な笑い声を立て始めた老医師を、恵麻里は言葉もなく、恐怖に凍り付いた面もちで凝視した。
彼の濁った瞳の奥で、次第にその輝きを強くしつつあるもの・・・。
それはまぎれもなく、理性の歯止めを完全に失った、狂気そのものの色だったからである・・・。
煉獄都市 第4章 恵麻里絶叫! 戦慄の魔法医師(マレフィカス)(3)
初めそれは、鏡の様な湖の水面に落ちた、雨の一滴(ひとしずく)のような感覚だった。
かすかな波紋が広がり、すぐに消える。しかし間を置かずに落ちてきた次の滴が新たな波紋を広げ、やがて多数の波紋同士がお互いに響き合って、水面を次第にざわつかせ始める・・・・。
(こッ、これは何?・・・)
麻酔の効果は急速に薄れてきつつあるが、それと反比例するように、恵麻里の下半身はその異様な感覚に支配されつつあった。
むず痒いような、ヒリヒリするような、何とも言えない感触。それがまさに波紋のように、身体の奥から繰り返し強く起こってくるのだ。
「どうじゃな?少しづつ感じてきたじゃろう?」
もじもじと身体を揺らし始めた恵麻里を眺め降ろしながら、アゲットは言った。
「・・・ゾ、ゾニアンね?私が失神している間に、またあの汚らわしい薬を使ったのね!」
奇妙な感覚が次第に女体の中心へと集まりつつあることを悟り、恵麻里は呻くように言った。
つい先程、無理矢理味合わされたばかりのおぞましいエクスタシー・・・。
今、自分の身体に渦巻いている感覚はまさにそれと同じものであり、麻酔が完全に切れた時に一気に牙を剥いて襲いかかってくるのだという、暗い予感があった。
「ゾニアンじゃと?あんな無粋な物をワシが使うものか。あれはクリスの専門じゃよ」
アゲットはフンと鼻を鳴らし、
「そもそも、『獲物』を薬漬けにして商品化するなんて、美意識の欠片もないやり方だとは思わんか?そんなことは、薬さえあれば素人にだって出来るわい。しかしワシは一流のプロじゃ。素人には真似の出来ない、プロの技術ってやつがあるんじゃよ」
「プロの・・・技術?・・・」
「そう、それがつまり、チョイとした手術って訳じゃ。ワシはお前さんを、野暮な薬の助けを借りなくとも、のべつ性の快楽に悶え狂う身体に改造してやったんじゃよ」
「な、何ですって、まさか、そんな!・・・」
恐るべき宣告に息を呑み、恵麻里は信じられないというように小さく首を振った。 しかしアゲットの言葉を裏付けるかのように、下半身の疼きは一秒ごとに激しさを増してくる。
「そんな手術など不可能だと思うかね?どっこい可能なんじゃ。もっともそれが出来るのは、世界広しと言えどもこのワシ一人だけじゃがな・・・」
アゲットは側のスチールデスクの上から封印されたシャーレを持ち上げ、恵麻里に示すように振ってみせた。
シャーレの中には何かドロリとしたゲル状の液体が入っていて、室内灯をキラキラと反射している。
「『バイオチップ』というのを知っているじゃろう?ワシの手術にはそれを利用するんじゃ。このシャーレの中には、ワシが独自に創り出したオリジナルのバイオチップが入っとる。そいつを、お前さんの女性器にチョイと埋め込んでやった訳じゃ・・・」
・・・バイオチップとは、新世紀の生体工学によって生み出された、一種の人工細胞である。人体内に入ると、周囲の細胞と同化しながら爆発的に増殖を始め、プログラムされた生体組織を再構成するのだ。
皮膚や耳の鼓膜、そして手足の指など、簡単な器官なら数時間で再生出来るので、傷病者の治療用に重宝されていた。しかし今、恵麻里の体内に植え付けられた物は!・・・・
「うッ・・・」
寒気のような感覚が脊髄を駆け上がり、恵麻里は思わず胸を反らせる。すっかり汗の引いていた全身が、また徐々に火照り初めていた。
「フォフォ・・・良くなってきたじゃろう?・・・そう、ワシの作ったバイオチップは、女体の性感を極限にまで高めるのじゃ。お前さんの膣の壁や陰核は、既にそうやって造り替えられとるんじゃよ・・・」
「そ、そんなこと・・・」
恐怖と驚愕で声を震わせつつ、恵麻里は得々と語るアゲットを睨み据えた。
「あ、あなたは完全にイカレているわ!そんな汚らわしい発明は、役に立たない自分のモノにでも使っていればいいのよ!」
「言われなくとも、真っ先に試したわい」
アゲットは自虐的な笑みを洩らし、
「元々このバイオチップは、ワシが自分の治療用に開発した物じゃからな。・・・しかし原因は分からんが、ワシのイチモツにはどうしても効果が現れなんだ。・・・だが、まあいい。今のワシには、このチップで性器を改造された女どもが、悶え狂って堕ちていくのを眺める事が、何よりの楽しみなんじゃから・・・」
言いながらアゲットは、大きく展開された恵麻里の双脚の正面に腰をかがめた。
「どれ・・・では仕上がり具合を点検させてもらおうかの。そろそろここが、嬉し涙をこぼし始めているじゃろう?・・・」
「あッ、ダメッ、見ないでッ!・・・」
老医師の視線から何とか局所をかばおうとして、恵麻里は激しく腰をよじった。自分のその部分が、彼の言うとおりに、熱い蜜をネットリと湛え始めていることに気付いていたからだ。
麻酔はもうほとんどその効力を失っていたが、固定された四肢の不自由さは変わらない。無駄とは知りつつも必死に脚を閉じ合わせようとする恵麻里の股間に、アゲットの節くれだった指先が無遠慮に這い込んできた。
「うッ!・・・」
湿った繊毛をかき分けられる感覚に、思わず呻き、身をこわばらせる。
「フォフォ・・・案の定、すっかりトロけてきとるわい・・・」
アゲットの指が、媚肉の縁をずり動かすようにくつろげた瞬間、身体の奥から粘い物がドッと溢れ出てくるのが感じられた。そしてその潤いが、恵麻里の作り替えられた肉体の感覚を、ますます鋭敏に覚醒させてゆく・・・。
「イヤッ!触らないでッ!・・・」
「何を言っとるか。触診せにゃあ、手術が上手くいったかどうか確認出来んじゃないか。もう生娘でもあるまいし、そう大袈裟に騒ぎなさんなよ・・・」
「そ、そんな・・・ああッ!・・・」
指先が、貫き破られたばかりの秘奥にヌルヌルとこすり込まれてくる。同時にその部分が、まるで沸き立ったかのように強烈な官能を発生するのだった。
「イイじゃろう?・・・フォフォ、ヒクヒク蠢いとるぞ」
「ダメ!・・・うッ、やめてッ!・・・」
「まるでツブツブが吸い付いてくるような感じじゃよ。フォフォ、こりゃあ、お嬢ちゃんのここは、キッチリ仕込めば相当な男泣かせになりそうじゃのう・・・」
「あうッ!・・・」
差し込まれた指が二本になり、濡れて柔らかくなった膣の径を、更に拡げようとするように蠢いた。同時に恵麻里の脳天に、まるで殴りつけるような激しい快感が突き上げてくる。
ゾニアンのそれとはまた少し違う、いやむしろ、より強烈で押し殺しがたい、新たなエクスタシーの味であった。
(・・・イヤ・・どうしてこんな・・・私の身体・・・本当に作り替えられてしまったの?・・・うッ、ダメッ!・・・・)
思わず嬌声がこぼれそうになり、グッと歯を食いしばる。必死に踏みとどまろうとする理性と裏腹に、火のついた若い女体の方はさらなる刺激を催促するかのように波打ち、蜜にまみれた鮮紅色の内臓を自らさらけ出してゆくのだった。
今日まで毫も知らなかった、獣じみた感覚と欲求・・・。自分の中に潜んでいた思いも寄らないものを次々引きずり出され、その屈辱と恐怖に打ち震えながら、もはやとても肉体の裏切りをこらえ切れそうもないと、心のどこかで絶望がささやき始めていた。
「フォフォ、手術は大成功じゃな。膣の壁はほとんど細胞変異が終わっておる。組織の色が・・・おお、そうじゃ!・・・・」
恵麻里の股間にほとんどのめり込むようにして見入っていたアゲットは、不意に何かに気付いたように顔を上げ、頓狂な声を出した。
「ワシの手術がどれほど芸術的な成果を上げているか、お嬢ちゃんにも見せてあげよう。きっと感動するぞォ・・・」
せわしく言いながら、恵麻里の寝かされた診察台の側面に回り込む。そこには小さな操作盤が付いていて、アゲットはそれをゴソゴソといじり始めた。
と・・・・。
ブゥゥーン・・・・。
かすかにモーターの唸る音がして、恵麻里の顔の脇からマジックハンドがせり上がってきた。
「?・・・・」
マジックハンドの先端には10インチ程の液晶モニターが取り付けられていて、それが恵麻里の顔の正面で止まる。画面には、何かが映し出されていた。
「あッ!・・・」
それが大写しになった自らの局部であることに気付き、恵麻里は悲鳴を上げて顔を背ける。
診察台の脚側からも、もう一本のマジックハンドが伸び、その先端に仕込まれたマイクロビデオカメラが、彼女の股間を至近距離から撮影していたのだ。眼前のモニターには、そこから送られた映像がリアルタイムで映し出されているのだった。
「ひどいッ!そんなの見せないでッ!・・・」
「そんなのって、自分の持ち物じゃろうが。ほれ、拡げてやるからよく見るんじゃよ」
「あッ、やッ、恥ずかしいッ!・・・」
ギュッと目を閉じ、頑なに横を向く恵麻里に、アゲットは次第に焦れたような声音になって、
「こんなに美しい物を何で見たがらないんじゃ?ほれッ、目を開けんかッ!」
「むうッ!・・・」
恥門の上端部をグリッと揉み込まれ、恵麻里は堪らずに大きく目を見開く。
濡れた突起はすでにたぎった血で硬くしこり、破裂しそうにボリュームを増している・・・いや、本当に破裂してしまうのではないかと思うほど、異様としか言いようのない快感が、その内部一杯に渦を巻いていた。アゲットの指の動きは、今や恵麻里にとって、それだけで真に狂気へと導かれてしまいそうな、恐怖以外の何ものでもなかった。
「目の前のモニターを見るんじゃよ!ほれ、ほれほれッ!・・・」
「あくッ!・・やめてッ、・・・見るわ!見るからッ!・・・指を、やめ・・・ああッ!・・・」
抵抗をあきらめ、悲壮な面もちで哀訴する恵麻里の髪を、アゲットは乱暴につかむと、念押しするように揺さぶった。
「ほれ、ラビア全体が大きく口を開いとるのが見えるじゃろう?どうじゃ?ん?」
「み、見えるわ・・・」
あえぎ、すすり上げながら、蚊の鳴くような声で恵麻里が答える。
「・・・この小陰唇をめくって・・・これが尿道口、そして膣の入り口じゃ。見とるかね?え?返事をせんかッ!」
「みッ、見てるわ!・・・あッ!乱暴にしないで!お願い、ちゃんと見てるからッ!どうか・・・」
次第に凶暴な本性をあらわにし始めた老医師の容赦ない指の呵責に、恵麻里の声は思わずすがるような調子になった。
「ほほう、大分口の利き方が素直になってきたのう。感心感心。商品として売られていこうって女は、やはり身の程ってものをわきまえとかなきゃならんからな・・・」
クリスと似たような事を言ってみせながら、アゲットは膣口にグイと指をねじ入れる。
「あうッ!・・・」
「痛くはないじゃろう?ほれ、ここを見なさい」
「う・・・・」
気の狂いそうな快感と恥ずかしさ・・・しかし目を閉じれば、アゲットの指がどんな仕打ちを加えてくるか分からない。やむなく見開いた目に、涙がみるみる盛り上がってくるのが感じられた。
「肉の襞が輪状に見えておるじゃろう?これがお前さんの膣の内部って訳じゃ。ほれ、組織の色が変わっているのが分かるかの?」
「あ・・・」
ビデオカメラと共にマジックハンドに取り付けられているライトが、破瓜されたばかりの女体の秘奥を惨たらしく照らし出している。
自分のそんな部分をつぶさに眺めたことなどもちろん無い恵麻里だが、濡れてヒクヒクと脈打っている内臓が、淫らな細胞にすっかり乗っ取られつつあることが本能で感じられた。
「・・・表面の粘膜が少しオレンジがかった色になって、所々が白い粒子に覆われているじゃろう?フォッフォッ・・・これがワシのバイオチップに冒され、再構成された、膣内細胞の特徴じゃよ。ほれ、具合はどうじゃ?」
「ああッ!・・・」
えぐり込むように、指がグルリと回される。指の腹に揉みつぶされた襞という襞が官能の悲鳴を上げ、大きな波となって、恵麻里の脳髄を突き上げてきた!
「ダメッ!・・・やッ、ァああああーッ!・・・・」
磔にされた裸身が、熱く張り切った乳房を頂点に一瞬ブルリと震え、大きく弓なりになる。
両手を握りしめ、足の指を内側に強く巻いて、恵麻里は自分の理性の断末魔を味わった。無数に浮いていた汗の粒が流れにまとまって肌を伝い、虚ろに見開かれた両目の端から、こらえていた涙が一息にあふれ出る。
(もうダメ・・・・私の身体・・・本当に、内側から・・・狂わされてしまった・・・・)
強制的に味あわされる絶頂は、今日だけでもう四度目だが、それが人体改造という手段でもたらされたことが、恵麻里の心にいい知れないショックを与えていた。
あらゆる感覚が全くままならず、汚れた召還犯罪者の導くままに痴態をさらけ出すしかない我が身は、もはやS・Tとしての資格も能力も完全に奪い取られてしまったのではないか・・・・そんな恐怖感が、心を黒々と覆ってくるのをとどめようもない。
「おや、もう気をやっちまったのかい。フォフォ・・・だが焦って絶頂を貪ることはないぞ。ワシのバイオチップがお前さんの身体に同化している限り、その快感はいつでも、いくらでも味わえるのじゃ。たとえお前さんが望まなくてもな・・・・」
狂気じみた光で目を爛々と輝かせながら、アゲットは言った。
「そしてバイオチップの寿命は、ほぼ半永久的じゃ。分かるかの?つまりお前さんの身体は、もう二度とお前さんの思い通りにはならん。お前さんは死ぬまで、その素晴らしい快楽と共に暮らすのじゃよ!」
「そ、そんな・・・嘘・・・・」
「嘘だものか。ほれ、ここはすぐにもお代わりが出来そうに、次から次と涎をこぼしておるわい」
「やッ!・・・あうッ!・・・」
肉唇の裏側をこじるようになぞり込まれ、汗にまみれた裸身がまるで感電したかのように反り身になる。
「完全に麻酔が切れたらしいのう。フォフォフォ・・・ほれ、遠慮はいらんぞ。新しい身体の使い心地を、心ゆくまで堪能するがいいわい・・・」
「お、お願い、もう許し・・・ひッ、ああーッ!・・・・」
アゲットの言葉通り、間を置かずに新たなオルガが襲ってくる。恵麻里の哀訴は、ヒイヒイというかすれた泣き声に変わりつつあった。
身体の芯が丸ごと溶けて流れ出してしまいそうなその感覚は、こじ開けられたばかりの若い女体にとって、もはや快楽よりも恐怖と苦しみの方が勝っていたからである。
少しでも脚を閉じ合わせようと膝頭に力を込めるが、繋ぎ留められた金具はビクともしない。内股の筋肉だけが、キューッと引きつれるように緊張するのが哀れであった。
「フォッフォッ、改造された身体は素晴らしいじゃろう?これからは一生ずっと、立ったりしゃがんだり、用を足したりする度に、その部分が刺激されて天国を味わえるんじゃ。いや、ただ歩いているだけでも、目眩がするほどの快感を覚えるはずじゃよ。フォッフォッ、フォーッフォッフォッフォッ・・・・」
自らの仕事の完璧な成果に、今や完全に狂騒状態におちいりながら、アゲットは全身を揺すって笑い声を立てた。
「クリスから聞いとるじゃろうが、お前さんたち商品は『マーメイド(人魚)』と呼ばれるんじゃ。今まさに、ワシのバイオチップで、お前さんは『人魚』に生まれ変わりつつあるんじゃよ。おとぎ話の人魚は魔法で人間になったが、ワシは逆に、人間を人魚にする魔法を持っているってワケじゃ。お前さんはもう、陸(おか)には上がれん。まともな世界には戻れないのじゃ。美しい人魚として、海の底を泳ぎ回ることしか出来ん。裏の社会という、闇に満ちた海の底をな・・・」
「そ、そんな・・・イヤ・・・。助けて・・・お願い、誰か助けに来てェエエーッ!・・・」
恵麻里は激しく泣き悶え、当てのない助けを空しく請い叫びながら、吹き出した汗と涙に光る裸身を波打たせ続ける。
そこにはもう、誇りと自信に満ちた新進気鋭のS・Tはいなかった。肉体を淫らな細胞に冒され、おびえ、絶望にあえぐ、無力な生贄の少女が一人いるだけであった。
ギシギシと診察台の軋む音、魔法医師の甲高い笑い声、そして呪いをかけられた哀れな人魚姫のすすり泣きが、絡まり合うように、嫋々と室内に響きわたっていった・・・・。
かすかな波紋が広がり、すぐに消える。しかし間を置かずに落ちてきた次の滴が新たな波紋を広げ、やがて多数の波紋同士がお互いに響き合って、水面を次第にざわつかせ始める・・・・。
(こッ、これは何?・・・)
麻酔の効果は急速に薄れてきつつあるが、それと反比例するように、恵麻里の下半身はその異様な感覚に支配されつつあった。
むず痒いような、ヒリヒリするような、何とも言えない感触。それがまさに波紋のように、身体の奥から繰り返し強く起こってくるのだ。
「どうじゃな?少しづつ感じてきたじゃろう?」
もじもじと身体を揺らし始めた恵麻里を眺め降ろしながら、アゲットは言った。
「・・・ゾ、ゾニアンね?私が失神している間に、またあの汚らわしい薬を使ったのね!」
奇妙な感覚が次第に女体の中心へと集まりつつあることを悟り、恵麻里は呻くように言った。
つい先程、無理矢理味合わされたばかりのおぞましいエクスタシー・・・。
今、自分の身体に渦巻いている感覚はまさにそれと同じものであり、麻酔が完全に切れた時に一気に牙を剥いて襲いかかってくるのだという、暗い予感があった。
「ゾニアンじゃと?あんな無粋な物をワシが使うものか。あれはクリスの専門じゃよ」
アゲットはフンと鼻を鳴らし、
「そもそも、『獲物』を薬漬けにして商品化するなんて、美意識の欠片もないやり方だとは思わんか?そんなことは、薬さえあれば素人にだって出来るわい。しかしワシは一流のプロじゃ。素人には真似の出来ない、プロの技術ってやつがあるんじゃよ」
「プロの・・・技術?・・・」
「そう、それがつまり、チョイとした手術って訳じゃ。ワシはお前さんを、野暮な薬の助けを借りなくとも、のべつ性の快楽に悶え狂う身体に改造してやったんじゃよ」
「な、何ですって、まさか、そんな!・・・」
恐るべき宣告に息を呑み、恵麻里は信じられないというように小さく首を振った。 しかしアゲットの言葉を裏付けるかのように、下半身の疼きは一秒ごとに激しさを増してくる。
「そんな手術など不可能だと思うかね?どっこい可能なんじゃ。もっともそれが出来るのは、世界広しと言えどもこのワシ一人だけじゃがな・・・」
アゲットは側のスチールデスクの上から封印されたシャーレを持ち上げ、恵麻里に示すように振ってみせた。
シャーレの中には何かドロリとしたゲル状の液体が入っていて、室内灯をキラキラと反射している。
「『バイオチップ』というのを知っているじゃろう?ワシの手術にはそれを利用するんじゃ。このシャーレの中には、ワシが独自に創り出したオリジナルのバイオチップが入っとる。そいつを、お前さんの女性器にチョイと埋め込んでやった訳じゃ・・・」
・・・バイオチップとは、新世紀の生体工学によって生み出された、一種の人工細胞である。人体内に入ると、周囲の細胞と同化しながら爆発的に増殖を始め、プログラムされた生体組織を再構成するのだ。
皮膚や耳の鼓膜、そして手足の指など、簡単な器官なら数時間で再生出来るので、傷病者の治療用に重宝されていた。しかし今、恵麻里の体内に植え付けられた物は!・・・・
「うッ・・・」
寒気のような感覚が脊髄を駆け上がり、恵麻里は思わず胸を反らせる。すっかり汗の引いていた全身が、また徐々に火照り初めていた。
「フォフォ・・・良くなってきたじゃろう?・・・そう、ワシの作ったバイオチップは、女体の性感を極限にまで高めるのじゃ。お前さんの膣の壁や陰核は、既にそうやって造り替えられとるんじゃよ・・・」
「そ、そんなこと・・・」
恐怖と驚愕で声を震わせつつ、恵麻里は得々と語るアゲットを睨み据えた。
「あ、あなたは完全にイカレているわ!そんな汚らわしい発明は、役に立たない自分のモノにでも使っていればいいのよ!」
「言われなくとも、真っ先に試したわい」
アゲットは自虐的な笑みを洩らし、
「元々このバイオチップは、ワシが自分の治療用に開発した物じゃからな。・・・しかし原因は分からんが、ワシのイチモツにはどうしても効果が現れなんだ。・・・だが、まあいい。今のワシには、このチップで性器を改造された女どもが、悶え狂って堕ちていくのを眺める事が、何よりの楽しみなんじゃから・・・」
言いながらアゲットは、大きく展開された恵麻里の双脚の正面に腰をかがめた。
「どれ・・・では仕上がり具合を点検させてもらおうかの。そろそろここが、嬉し涙をこぼし始めているじゃろう?・・・」
「あッ、ダメッ、見ないでッ!・・・」
老医師の視線から何とか局所をかばおうとして、恵麻里は激しく腰をよじった。自分のその部分が、彼の言うとおりに、熱い蜜をネットリと湛え始めていることに気付いていたからだ。
麻酔はもうほとんどその効力を失っていたが、固定された四肢の不自由さは変わらない。無駄とは知りつつも必死に脚を閉じ合わせようとする恵麻里の股間に、アゲットの節くれだった指先が無遠慮に這い込んできた。
「うッ!・・・」
湿った繊毛をかき分けられる感覚に、思わず呻き、身をこわばらせる。
「フォフォ・・・案の定、すっかりトロけてきとるわい・・・」
アゲットの指が、媚肉の縁をずり動かすようにくつろげた瞬間、身体の奥から粘い物がドッと溢れ出てくるのが感じられた。そしてその潤いが、恵麻里の作り替えられた肉体の感覚を、ますます鋭敏に覚醒させてゆく・・・。
「イヤッ!触らないでッ!・・・」
「何を言っとるか。触診せにゃあ、手術が上手くいったかどうか確認出来んじゃないか。もう生娘でもあるまいし、そう大袈裟に騒ぎなさんなよ・・・」
「そ、そんな・・・ああッ!・・・」
指先が、貫き破られたばかりの秘奥にヌルヌルとこすり込まれてくる。同時にその部分が、まるで沸き立ったかのように強烈な官能を発生するのだった。
「イイじゃろう?・・・フォフォ、ヒクヒク蠢いとるぞ」
「ダメ!・・・うッ、やめてッ!・・・」
「まるでツブツブが吸い付いてくるような感じじゃよ。フォフォ、こりゃあ、お嬢ちゃんのここは、キッチリ仕込めば相当な男泣かせになりそうじゃのう・・・」
「あうッ!・・・」
差し込まれた指が二本になり、濡れて柔らかくなった膣の径を、更に拡げようとするように蠢いた。同時に恵麻里の脳天に、まるで殴りつけるような激しい快感が突き上げてくる。
ゾニアンのそれとはまた少し違う、いやむしろ、より強烈で押し殺しがたい、新たなエクスタシーの味であった。
(・・・イヤ・・どうしてこんな・・・私の身体・・・本当に作り替えられてしまったの?・・・うッ、ダメッ!・・・・)
思わず嬌声がこぼれそうになり、グッと歯を食いしばる。必死に踏みとどまろうとする理性と裏腹に、火のついた若い女体の方はさらなる刺激を催促するかのように波打ち、蜜にまみれた鮮紅色の内臓を自らさらけ出してゆくのだった。
今日まで毫も知らなかった、獣じみた感覚と欲求・・・。自分の中に潜んでいた思いも寄らないものを次々引きずり出され、その屈辱と恐怖に打ち震えながら、もはやとても肉体の裏切りをこらえ切れそうもないと、心のどこかで絶望がささやき始めていた。
「フォフォ、手術は大成功じゃな。膣の壁はほとんど細胞変異が終わっておる。組織の色が・・・おお、そうじゃ!・・・・」
恵麻里の股間にほとんどのめり込むようにして見入っていたアゲットは、不意に何かに気付いたように顔を上げ、頓狂な声を出した。
「ワシの手術がどれほど芸術的な成果を上げているか、お嬢ちゃんにも見せてあげよう。きっと感動するぞォ・・・」
せわしく言いながら、恵麻里の寝かされた診察台の側面に回り込む。そこには小さな操作盤が付いていて、アゲットはそれをゴソゴソといじり始めた。
と・・・・。
ブゥゥーン・・・・。
かすかにモーターの唸る音がして、恵麻里の顔の脇からマジックハンドがせり上がってきた。
「?・・・・」
マジックハンドの先端には10インチ程の液晶モニターが取り付けられていて、それが恵麻里の顔の正面で止まる。画面には、何かが映し出されていた。
「あッ!・・・」
それが大写しになった自らの局部であることに気付き、恵麻里は悲鳴を上げて顔を背ける。
診察台の脚側からも、もう一本のマジックハンドが伸び、その先端に仕込まれたマイクロビデオカメラが、彼女の股間を至近距離から撮影していたのだ。眼前のモニターには、そこから送られた映像がリアルタイムで映し出されているのだった。
「ひどいッ!そんなの見せないでッ!・・・」
「そんなのって、自分の持ち物じゃろうが。ほれ、拡げてやるからよく見るんじゃよ」
「あッ、やッ、恥ずかしいッ!・・・」
ギュッと目を閉じ、頑なに横を向く恵麻里に、アゲットは次第に焦れたような声音になって、
「こんなに美しい物を何で見たがらないんじゃ?ほれッ、目を開けんかッ!」
「むうッ!・・・」
恥門の上端部をグリッと揉み込まれ、恵麻里は堪らずに大きく目を見開く。
濡れた突起はすでにたぎった血で硬くしこり、破裂しそうにボリュームを増している・・・いや、本当に破裂してしまうのではないかと思うほど、異様としか言いようのない快感が、その内部一杯に渦を巻いていた。アゲットの指の動きは、今や恵麻里にとって、それだけで真に狂気へと導かれてしまいそうな、恐怖以外の何ものでもなかった。
「目の前のモニターを見るんじゃよ!ほれ、ほれほれッ!・・・」
「あくッ!・・やめてッ、・・・見るわ!見るからッ!・・・指を、やめ・・・ああッ!・・・」
抵抗をあきらめ、悲壮な面もちで哀訴する恵麻里の髪を、アゲットは乱暴につかむと、念押しするように揺さぶった。
「ほれ、ラビア全体が大きく口を開いとるのが見えるじゃろう?どうじゃ?ん?」
「み、見えるわ・・・」
あえぎ、すすり上げながら、蚊の鳴くような声で恵麻里が答える。
「・・・この小陰唇をめくって・・・これが尿道口、そして膣の入り口じゃ。見とるかね?え?返事をせんかッ!」
「みッ、見てるわ!・・・あッ!乱暴にしないで!お願い、ちゃんと見てるからッ!どうか・・・」
次第に凶暴な本性をあらわにし始めた老医師の容赦ない指の呵責に、恵麻里の声は思わずすがるような調子になった。
「ほほう、大分口の利き方が素直になってきたのう。感心感心。商品として売られていこうって女は、やはり身の程ってものをわきまえとかなきゃならんからな・・・」
クリスと似たような事を言ってみせながら、アゲットは膣口にグイと指をねじ入れる。
「あうッ!・・・」
「痛くはないじゃろう?ほれ、ここを見なさい」
「う・・・・」
気の狂いそうな快感と恥ずかしさ・・・しかし目を閉じれば、アゲットの指がどんな仕打ちを加えてくるか分からない。やむなく見開いた目に、涙がみるみる盛り上がってくるのが感じられた。
「肉の襞が輪状に見えておるじゃろう?これがお前さんの膣の内部って訳じゃ。ほれ、組織の色が変わっているのが分かるかの?」
「あ・・・」
ビデオカメラと共にマジックハンドに取り付けられているライトが、破瓜されたばかりの女体の秘奥を惨たらしく照らし出している。
自分のそんな部分をつぶさに眺めたことなどもちろん無い恵麻里だが、濡れてヒクヒクと脈打っている内臓が、淫らな細胞にすっかり乗っ取られつつあることが本能で感じられた。
「・・・表面の粘膜が少しオレンジがかった色になって、所々が白い粒子に覆われているじゃろう?フォッフォッ・・・これがワシのバイオチップに冒され、再構成された、膣内細胞の特徴じゃよ。ほれ、具合はどうじゃ?」
「ああッ!・・・」
えぐり込むように、指がグルリと回される。指の腹に揉みつぶされた襞という襞が官能の悲鳴を上げ、大きな波となって、恵麻里の脳髄を突き上げてきた!
「ダメッ!・・・やッ、ァああああーッ!・・・・」
磔にされた裸身が、熱く張り切った乳房を頂点に一瞬ブルリと震え、大きく弓なりになる。
両手を握りしめ、足の指を内側に強く巻いて、恵麻里は自分の理性の断末魔を味わった。無数に浮いていた汗の粒が流れにまとまって肌を伝い、虚ろに見開かれた両目の端から、こらえていた涙が一息にあふれ出る。
(もうダメ・・・・私の身体・・・本当に、内側から・・・狂わされてしまった・・・・)
強制的に味あわされる絶頂は、今日だけでもう四度目だが、それが人体改造という手段でもたらされたことが、恵麻里の心にいい知れないショックを与えていた。
あらゆる感覚が全くままならず、汚れた召還犯罪者の導くままに痴態をさらけ出すしかない我が身は、もはやS・Tとしての資格も能力も完全に奪い取られてしまったのではないか・・・・そんな恐怖感が、心を黒々と覆ってくるのをとどめようもない。
「おや、もう気をやっちまったのかい。フォフォ・・・だが焦って絶頂を貪ることはないぞ。ワシのバイオチップがお前さんの身体に同化している限り、その快感はいつでも、いくらでも味わえるのじゃ。たとえお前さんが望まなくてもな・・・・」
狂気じみた光で目を爛々と輝かせながら、アゲットは言った。
「そしてバイオチップの寿命は、ほぼ半永久的じゃ。分かるかの?つまりお前さんの身体は、もう二度とお前さんの思い通りにはならん。お前さんは死ぬまで、その素晴らしい快楽と共に暮らすのじゃよ!」
「そ、そんな・・・嘘・・・・」
「嘘だものか。ほれ、ここはすぐにもお代わりが出来そうに、次から次と涎をこぼしておるわい」
「やッ!・・・あうッ!・・・」
肉唇の裏側をこじるようになぞり込まれ、汗にまみれた裸身がまるで感電したかのように反り身になる。
「完全に麻酔が切れたらしいのう。フォフォフォ・・・ほれ、遠慮はいらんぞ。新しい身体の使い心地を、心ゆくまで堪能するがいいわい・・・」
「お、お願い、もう許し・・・ひッ、ああーッ!・・・・」
アゲットの言葉通り、間を置かずに新たなオルガが襲ってくる。恵麻里の哀訴は、ヒイヒイというかすれた泣き声に変わりつつあった。
身体の芯が丸ごと溶けて流れ出してしまいそうなその感覚は、こじ開けられたばかりの若い女体にとって、もはや快楽よりも恐怖と苦しみの方が勝っていたからである。
少しでも脚を閉じ合わせようと膝頭に力を込めるが、繋ぎ留められた金具はビクともしない。内股の筋肉だけが、キューッと引きつれるように緊張するのが哀れであった。
「フォッフォッ、改造された身体は素晴らしいじゃろう?これからは一生ずっと、立ったりしゃがんだり、用を足したりする度に、その部分が刺激されて天国を味わえるんじゃ。いや、ただ歩いているだけでも、目眩がするほどの快感を覚えるはずじゃよ。フォッフォッ、フォーッフォッフォッフォッ・・・・」
自らの仕事の完璧な成果に、今や完全に狂騒状態におちいりながら、アゲットは全身を揺すって笑い声を立てた。
「クリスから聞いとるじゃろうが、お前さんたち商品は『マーメイド(人魚)』と呼ばれるんじゃ。今まさに、ワシのバイオチップで、お前さんは『人魚』に生まれ変わりつつあるんじゃよ。おとぎ話の人魚は魔法で人間になったが、ワシは逆に、人間を人魚にする魔法を持っているってワケじゃ。お前さんはもう、陸(おか)には上がれん。まともな世界には戻れないのじゃ。美しい人魚として、海の底を泳ぎ回ることしか出来ん。裏の社会という、闇に満ちた海の底をな・・・」
「そ、そんな・・・イヤ・・・。助けて・・・お願い、誰か助けに来てェエエーッ!・・・」
恵麻里は激しく泣き悶え、当てのない助けを空しく請い叫びながら、吹き出した汗と涙に光る裸身を波打たせ続ける。
そこにはもう、誇りと自信に満ちた新進気鋭のS・Tはいなかった。肉体を淫らな細胞に冒され、おびえ、絶望にあえぐ、無力な生贄の少女が一人いるだけであった。
ギシギシと診察台の軋む音、魔法医師の甲高い笑い声、そして呪いをかけられた哀れな人魚姫のすすり泣きが、絡まり合うように、嫋々と室内に響きわたっていった・・・・。
煉獄都市 第5章 奈落での邂逅(1)
「ほれほれ、とっとと進まんか!」
恵麻里は「サンクチュアリ」内の廊下を、老医師アゲットに追い立てられるようにして歩かされていた。
この施設の3Fには廊下に沿って六つの部屋があり、恵麻里が惨たらしい手術を施されていたのはその東端の一室だった。そして今、部屋から連れ出された恵麻里は、西側の端に向けて廊下を渡らされている・・・。
「うッ・・・ああ・・・・」
一歩足を進める度に、恵麻里は眉音を寄せてうめき声を上げる。
未だ一糸纏わぬ全裸のまま、両腕はバンドによって後ろに束ねられてはいたが、脚の縛めは外されている。歩行に不自由はないはずなのだが、しかし彼女の歩みは、まるで長期間ギブスをはめられていた傷病者でもあるかのように弱々しく、頼りなかった。
(・・・ま、まさかこんな・・・まともに歩くことすら出来ないなんて・・・あうッ!・・・い、一体どうすればいいの?・・・・)
恐ろしい魔の細胞を植え付けられたばかりの秘唇、そして一向に火照りの収まらない肉芽が異常な性感の発信地となり、一歩歩くごとにズキーンと脳天を突き上げるようなショックが襲ってくるのだ。
普通に歩くどころか、しゃがみ込まないようにするだけで精一杯で、恵麻里は歯を食いしばりながら、身を揉むようにヨチヨチと足を送るしかなかった。無論、走って逃げ出すことなどは出来そうもない。
「も、もうダメ・・・・」
廊下を半ば程まで進んだ所で、恵麻里は全身を苛む淫靡な感覚に堪えかねて、中腰に立ち止まってしまった。
「もう・・・歩けないわ・・・。お願い、少し休ませて・・・・」
逆Yの字に踏ん張った脚がガクガクと震え、今にもその場にへたり込んでしまいそうになる。
膣内の襞の一つ一つが、まるで官能という膿を一杯に溜め込んだ水疱になってしまったかのような、異様な感覚であった。これ以上一歩でも進めば、その刺激が水疱を破裂させ、汚れた膿がドッと溢れ出してしまう・・・・そんな奇妙な恐怖感が、恵麻里の歩みをためらわせていた。
「おいおいお嬢ちゃん・・・」
アゲットは苦笑を浮かべてかぶりを振り、
「ワシはお前さんに、無理やり山登りをさせてるって訳じゃないんじゃよ。部屋から部屋へ、ほんのちょっとした距離を移動してくれと言っとるだけじゃ。いくらなんでも、そのくらいのことが出来ないわけはないじゃろう?」
「で、でも・・・・」
「ゴールの部屋は、ほれ、すぐそこじゃ。頑張って進まんか!」
アゲットのかさついた掌が、汗に濡れた恵麻里の背中をドン!とどやすように押しやった。
「あッ!イヤッ!・・・」
悲壮な声を上げ、恵麻里はその場に踏みとどまろうと腰を落としたが、その動作がかえって局所には大きな負担となったらしい。
「あァァァーッ!・・・」
あえかな悲鳴と共に、恵麻里はなよなよと身悶えながら、尻もちを付く格好でその場にへたり込んでしまった。
「ううッ・・・うッ、うッ・・・」
震える肩の間へ深く首を折り、絶望しきったように嗚咽を漏らしながら、すり寄せた双脚を腹の下へと折り畳み、少しでも秘部を覆い隠そうとする。その部分がヒクヒクと痙攣し、まるで射止められた獣の傷口ででもあるかのように、新たな体液を流し出しているのが感じられた。
不安の通り、ほんの急な動作を強いられただけで、女体の芯が脆くも官能に爆ぜてしまったのだ。最前散々に気をやらされ、汚れた欲求を思うさま吐き出し尽くしたばかりの身体だというのに!・・・・
(・・・恥ずかしい!・・・これは本当に私の身体なの?・・・しかもこの淫らな感覚から、もう一生逃れられないなんて!・・・・)
耐え難い屈辱、そして羞恥と共に、決定的とも言える敗北感が、心を一杯に満たしてくるのを恵麻里は感じた。
あのクリスにも、ゾニアンによって無理やり屈辱的な絶頂へと導かれはした。しかしそれは、しょせん薬が効いている間だけの事だ。処女こそ奪われたが、薬さえ効力を失えば、いくらでも逆襲に転じるチャンスがあると思われたのである。
だが、バイオチップによるエクスタシーは違う。
アゲットの言ったとおり、それは恵麻里の肉体から永遠に消えることのない「呪い」なのだ。
もはや自分には、本当に「性の商品」として売られてゆく運命しか残されていないのかもしれない・・・・そんな絶望感が、胸を押しつぶすように膨れ上がってくるのだった。
「こらこらお嬢ちゃん・・・」
クックッと小さく笑いながら、アゲットは恵麻里の前に回り込んで見おろした。
「ワシのバイオチップがお気に入りのようで光栄じゃが、ガツガツ楽しむのはまた後にしてくれんかの。さっきも言ったとおり、その快楽はいつでも好きなときに味わえるのじゃから・・・」
「・・・・・」
「それに何しろ、クリスの奴が待ちくたびれておるのでな。お前さんに何か用があるんだそうじゃ。さあさあ、立つんじゃよ!」
仕方なく、恵麻里は震える脚に何とか力を込め、ようやくフラフラと中腰に立ち上がった。
普段ならば片手でも投げ飛ばせそうなこの老医師に、今の恵麻里は歯がみをしながらも素直に従うしかない。繰り返し浅ましく気をやる様を見られてしまったという負い目が、肉体的にだけでなく、精神的にも、彼女の抵抗力をくびきに繋いでしまっていたのだ。
「う・・・くッ・・・・」
呻き、喘ぎながらもトボトボと歩を運び、やっとの思いで西の端の部屋にたどり着く。20メートルそこそこのその距離が、恵麻里にはまるで広大な砂漠を横断してきたかのように感じられた。
「長い道のり、ご苦労さん。さあ、中へお入り・・・」
ニヤニヤとからかうように言いながら、アゲットがドアを開ける。
・・・そこは、最初に恵麻里が閉じこめられた部屋よりもひとまわり大きなオフィスルームだった。
室内には床一面にクリーム色の絨毯が敷かれ、最新式のデジタル端末が乗った事務机と書類棚が窓際に置かれている。
奥の壁にはガッシリとした木製のドアがはまっていて、もう一間、続き部屋が設けられているらしいことがわかった。
「ようクリス、こちらはひとまず終わったぞ」
アゲットは事務机の前に座っているクリス・宮崎にそう呼びかけたが、ちょうど電話中だったらしいクリスは、アゲットの方にちょっと片手を上げただけで、そのまま通話を続けている。
「・・・ええ、上手くいったわ。・・・ううん、大丈夫、間に合うわよ。・・・ええそう、じゃあ時間どおりに・・・・」
ふふっと含み笑いをしながら受話器を置き、クリスはこちらに向き直った。
「ご苦労様、アゲット。いつもよりも少し時間がかかったわね。何か不手際?」
「いやいや、手術は大成功じゃよ。あんまり見事な出来映えなんで、つい楽しみすぎてしまったんじゃ」
「あらそう・・・」
苦笑をし、クリスは椅子から立ち上がる。
「要するに、『獲物』は申し分ない健康体で、バイオチップはしっかり根付いたってことなのね?」
「そうじゃ。とりあえずは膣の周りだけじゃがな。・・・明日までに極端な拒絶反応が現れなければ、他の部分・・・つまり乳首や肛門にも移植をしてみよう」
(そ、そんな・・・・)
二人の悪魔の恐ろしい会話を聞き、恵麻里の顔から思わず血の気が引いた。
すでにまともに歩くことさえ適わない身体に、この上まだ淫らな改造が加えられるというのだろうか?・・・・
「まあ、震えているの?恵麻里ちゃん」
クリスが、蒼白になった恵麻里の顔をのぞき込むようにして言った。
「怖いことなんか何もないのよ。逆に、今よりももっと気持ちが良くなるの。フフ・・・バイオチップがどんなに素敵な魔法か、もうあなたにも分かっているでしょう?・・・」
「!・・・・」
クリスの視線が自分の股間に注がれていることに気付き、恵麻里は中腰の身体をさらに屈めるようにすくませた。
なだらかな下腹部の草むらには、心ならずも吹き出した淫らな汗が所々に滴のように溜まり、キラキラと輝いている。そしてその汗は、固く閉じ合わせた太股のあわい目に沿って粘い流れを作っているのだ。
恐ろしい悪魔の媚薬と人工細胞に脆くも打ち負かされてしまった自分の情けなさを思い知らされるようで、その部分を見られることは堪らない恥辱であった。
「フォフォ・・・どうじゃなクリス?お嬢ちゃん、すっかり大人しくなっとるじゃろう?」
と、アゲットが自慢げに肩をそびやかし、
「S・Tじゃろうが何じゃろうが、ワシの手術にかかればアッと言う間にこのザマさ。従順な奴隷が一丁上がりって訳じゃ」
「そうね、素直になったのは好都合だけれど・・・・」
微笑を浮かべたまま、クリスは恵麻里の顎を摘むように持って仰のかせた。
「でも、もうひと頑張り元気を出してもらわなくちゃ困るわ。・・・実はあなたに頼みたいことがあるの」
「た、頼み?・・・」
意外な申し出に、恵麻里はギョッとなってクリスを見上げる。
「そうよ、あなたにしか出来ないことなの。ぜひ引き受けて欲しいのよ」
「な、何をしろと言うの?・・・」
「簡単なことよ。私たちの仕事を・・・まあつまり非合法な仕事だけれど・・・ちょっと手伝って欲しいの」
「ば、馬鹿な!出来ないわそんなこと!」
驚き呆れ、叫ぶように恵麻里は言った。
「見損なわないで!あなた達の悪事の片棒をかつぐなんてとんでもないわッ!」
「見損なう?あなたこそ、自分のことを少し買いかぶりすぎてやしないかしら?」
クリスは嘲るように言い、
「今のあなたは正義を守るS・Tでも何でもないのよ。私たちに捕まって身体を作り替えられ、あそこからイヤらしい汁を垂れ流してる、単なるメスの獲物じゃない。せいぜい私たちのお先棒を持つのがお似合いだとは思わない?」
「な、何と言われても・・・」
恵麻里は後ろ手にされた上体を反らせ、気力を振り絞って相手を睨み付けた。
「それだけは絶対にお断りよ!例え殺されたって、言うことなんか聞くもんですかッ!」
クリスの下品な揶揄が、恵麻里のS・Tとしての最後の意地に、かえって火をつけたのである。
激しい怒りが肉体の疼きを一瞬忘れさせ、完全に萎えかけていた精神に新たな闘志が沸き起こってくるのを、恵麻里は感じた。
「フーン・・・」
困惑したようにかぶりを振り、クリスはアゲットに唇を突き出して見せた。
「『すっかり大人しくなった』が聞いて呆れるわ。この娘まだまだあきらめが悪いようよ」
「驚いたな。大した精神力じゃ・・・」
アゲットはばつが悪そうにうなずいて、
「バイオチップは完全に機能しておる。普通の女なら、立っているのがやっとで、とっくに抵抗する気力を無くしとるはずじゃが・・・。こりゃあこのお嬢ちゃん、本当に殺されたって言いなりにはならない覚悟らしいぞ」
「フン、だからといって引き下がるわけにいくものですか!」
クリスは腕を組み、眇になって恵麻里を見下ろした。
「どうやらこの娘には、自分の立場ってものをもう一度思い知らせてやる必要がありそうね。アゲット、あれをこの娘に見せてやって!」
「あれって・・・あれかい?」
アゲットは目を瞬き、意外そうにクリスを見た。
「そりゃワシは構わんが、お前さん、ありゃ後のお楽しみに取っておくと言っておったじゃないか」
「ええ、そのつもりだったけれど・・・」
クリスはうなずき、
「でも仕方がないじゃない。この娘は殺されるより辛い目に合わせないと、今すぐには言うことを聞きそうにないもの。・・・あまりのんびりとはしていられないのよ。急ぎの仕事を手伝ってもらいたいんだから」
「やれやれ、分かったよ・・・」
アゲットは鼻を鳴らすと、奥の壁のドアを開けて次の間へと姿を消した。
(・・・一体何をする気なの?また新たな媚薬や拷問具を持ち出すつもりかしら?・・・・)
恵麻里は想像し、恐怖に身を固くしたが、同時に不思議な、開き直りのような感情をも覚え始めていた。
そう・・・もしかすると、もうこの組織からは逃げられず、性の商品として売られてゆく運命も変えられないかもしれない。更なる肉体改造に狂わされ、再び泣いて許しを乞うこともあるだろう。
だがしかし、犯罪行為への協力だけは何としてでもはねつけてやればよいのだ!
それだけを貫き通せれば、S・Tとして生きてきた自分の、最後のプライドだけは守り抜くことが出来る!・・・・そう決意し、恵麻里はアゲットが消えた部屋のドアを睨み付けた。あの老医師が、その部屋から何を持ち出して来ようと、それがたとえ、更に強力なバイオチップであったとしても、出来得る限りの抵抗を試みるつもりだった。
「ほれクリス、受け取れ!」
ドアが開き、アゲットの右手がニュッと突き出された。
・・・が、その手に握られているのはバイオチップや媚薬ではなく、まして拷問具の類でもないらしい。
「?・・・・」
・・・それは明るい紫色に塗られた、ナイロン製らしいロープであった。一端がループ状になっていて、アゲットの手はその部分を握っている。
(この縄は何?・・・私をさらに縛り上げようというの?・・・・)
怪訝そうに見つめる恵麻里には構わず、クリスはアゲットの手からロープを受け取ると、それを強く手繰り寄せた。
「むぐぅううーッ!・・・・」
くぐもった叫び声が起こり、同時にドアが勢い良くこちらへ開かれた!
「あッ!・・・」
恵麻里は思わず驚愕の声を上げ、目を大きく見開く。
ロープの反対側には、恵麻里の両手を繋ぎ止めているのと同じ暗赤色の革バンドが付いていて、それが一人の人物の首をグルリと巻き取っていたのである!
まるで首輪をはめられた犬のように、ドアの中から引きずり出されてきたその人物とは・・・!
「し、静音ッ!!・・・」
悲愴な面持ちで、恵麻里は絞り出すような叫びを上げた。
・・・そう、そこに繋がれていたのは、彼女にとって一番の親友であり、かけがえのないパートナーでもある、静音・ブルックスその人の、惨たらしく全裸に剥かれた姿だったのである!・・・・
恵麻里は「サンクチュアリ」内の廊下を、老医師アゲットに追い立てられるようにして歩かされていた。
この施設の3Fには廊下に沿って六つの部屋があり、恵麻里が惨たらしい手術を施されていたのはその東端の一室だった。そして今、部屋から連れ出された恵麻里は、西側の端に向けて廊下を渡らされている・・・。
「うッ・・・ああ・・・・」
一歩足を進める度に、恵麻里は眉音を寄せてうめき声を上げる。
未だ一糸纏わぬ全裸のまま、両腕はバンドによって後ろに束ねられてはいたが、脚の縛めは外されている。歩行に不自由はないはずなのだが、しかし彼女の歩みは、まるで長期間ギブスをはめられていた傷病者でもあるかのように弱々しく、頼りなかった。
(・・・ま、まさかこんな・・・まともに歩くことすら出来ないなんて・・・あうッ!・・・い、一体どうすればいいの?・・・・)
恐ろしい魔の細胞を植え付けられたばかりの秘唇、そして一向に火照りの収まらない肉芽が異常な性感の発信地となり、一歩歩くごとにズキーンと脳天を突き上げるようなショックが襲ってくるのだ。
普通に歩くどころか、しゃがみ込まないようにするだけで精一杯で、恵麻里は歯を食いしばりながら、身を揉むようにヨチヨチと足を送るしかなかった。無論、走って逃げ出すことなどは出来そうもない。
「も、もうダメ・・・・」
廊下を半ば程まで進んだ所で、恵麻里は全身を苛む淫靡な感覚に堪えかねて、中腰に立ち止まってしまった。
「もう・・・歩けないわ・・・。お願い、少し休ませて・・・・」
逆Yの字に踏ん張った脚がガクガクと震え、今にもその場にへたり込んでしまいそうになる。
膣内の襞の一つ一つが、まるで官能という膿を一杯に溜め込んだ水疱になってしまったかのような、異様な感覚であった。これ以上一歩でも進めば、その刺激が水疱を破裂させ、汚れた膿がドッと溢れ出してしまう・・・・そんな奇妙な恐怖感が、恵麻里の歩みをためらわせていた。
「おいおいお嬢ちゃん・・・」
アゲットは苦笑を浮かべてかぶりを振り、
「ワシはお前さんに、無理やり山登りをさせてるって訳じゃないんじゃよ。部屋から部屋へ、ほんのちょっとした距離を移動してくれと言っとるだけじゃ。いくらなんでも、そのくらいのことが出来ないわけはないじゃろう?」
「で、でも・・・・」
「ゴールの部屋は、ほれ、すぐそこじゃ。頑張って進まんか!」
アゲットのかさついた掌が、汗に濡れた恵麻里の背中をドン!とどやすように押しやった。
「あッ!イヤッ!・・・」
悲壮な声を上げ、恵麻里はその場に踏みとどまろうと腰を落としたが、その動作がかえって局所には大きな負担となったらしい。
「あァァァーッ!・・・」
あえかな悲鳴と共に、恵麻里はなよなよと身悶えながら、尻もちを付く格好でその場にへたり込んでしまった。
「ううッ・・・うッ、うッ・・・」
震える肩の間へ深く首を折り、絶望しきったように嗚咽を漏らしながら、すり寄せた双脚を腹の下へと折り畳み、少しでも秘部を覆い隠そうとする。その部分がヒクヒクと痙攣し、まるで射止められた獣の傷口ででもあるかのように、新たな体液を流し出しているのが感じられた。
不安の通り、ほんの急な動作を強いられただけで、女体の芯が脆くも官能に爆ぜてしまったのだ。最前散々に気をやらされ、汚れた欲求を思うさま吐き出し尽くしたばかりの身体だというのに!・・・・
(・・・恥ずかしい!・・・これは本当に私の身体なの?・・・しかもこの淫らな感覚から、もう一生逃れられないなんて!・・・・)
耐え難い屈辱、そして羞恥と共に、決定的とも言える敗北感が、心を一杯に満たしてくるのを恵麻里は感じた。
あのクリスにも、ゾニアンによって無理やり屈辱的な絶頂へと導かれはした。しかしそれは、しょせん薬が効いている間だけの事だ。処女こそ奪われたが、薬さえ効力を失えば、いくらでも逆襲に転じるチャンスがあると思われたのである。
だが、バイオチップによるエクスタシーは違う。
アゲットの言ったとおり、それは恵麻里の肉体から永遠に消えることのない「呪い」なのだ。
もはや自分には、本当に「性の商品」として売られてゆく運命しか残されていないのかもしれない・・・・そんな絶望感が、胸を押しつぶすように膨れ上がってくるのだった。
「こらこらお嬢ちゃん・・・」
クックッと小さく笑いながら、アゲットは恵麻里の前に回り込んで見おろした。
「ワシのバイオチップがお気に入りのようで光栄じゃが、ガツガツ楽しむのはまた後にしてくれんかの。さっきも言ったとおり、その快楽はいつでも好きなときに味わえるのじゃから・・・」
「・・・・・」
「それに何しろ、クリスの奴が待ちくたびれておるのでな。お前さんに何か用があるんだそうじゃ。さあさあ、立つんじゃよ!」
仕方なく、恵麻里は震える脚に何とか力を込め、ようやくフラフラと中腰に立ち上がった。
普段ならば片手でも投げ飛ばせそうなこの老医師に、今の恵麻里は歯がみをしながらも素直に従うしかない。繰り返し浅ましく気をやる様を見られてしまったという負い目が、肉体的にだけでなく、精神的にも、彼女の抵抗力をくびきに繋いでしまっていたのだ。
「う・・・くッ・・・・」
呻き、喘ぎながらもトボトボと歩を運び、やっとの思いで西の端の部屋にたどり着く。20メートルそこそこのその距離が、恵麻里にはまるで広大な砂漠を横断してきたかのように感じられた。
「長い道のり、ご苦労さん。さあ、中へお入り・・・」
ニヤニヤとからかうように言いながら、アゲットがドアを開ける。
・・・そこは、最初に恵麻里が閉じこめられた部屋よりもひとまわり大きなオフィスルームだった。
室内には床一面にクリーム色の絨毯が敷かれ、最新式のデジタル端末が乗った事務机と書類棚が窓際に置かれている。
奥の壁にはガッシリとした木製のドアがはまっていて、もう一間、続き部屋が設けられているらしいことがわかった。
「ようクリス、こちらはひとまず終わったぞ」
アゲットは事務机の前に座っているクリス・宮崎にそう呼びかけたが、ちょうど電話中だったらしいクリスは、アゲットの方にちょっと片手を上げただけで、そのまま通話を続けている。
「・・・ええ、上手くいったわ。・・・ううん、大丈夫、間に合うわよ。・・・ええそう、じゃあ時間どおりに・・・・」
ふふっと含み笑いをしながら受話器を置き、クリスはこちらに向き直った。
「ご苦労様、アゲット。いつもよりも少し時間がかかったわね。何か不手際?」
「いやいや、手術は大成功じゃよ。あんまり見事な出来映えなんで、つい楽しみすぎてしまったんじゃ」
「あらそう・・・」
苦笑をし、クリスは椅子から立ち上がる。
「要するに、『獲物』は申し分ない健康体で、バイオチップはしっかり根付いたってことなのね?」
「そうじゃ。とりあえずは膣の周りだけじゃがな。・・・明日までに極端な拒絶反応が現れなければ、他の部分・・・つまり乳首や肛門にも移植をしてみよう」
(そ、そんな・・・・)
二人の悪魔の恐ろしい会話を聞き、恵麻里の顔から思わず血の気が引いた。
すでにまともに歩くことさえ適わない身体に、この上まだ淫らな改造が加えられるというのだろうか?・・・・
「まあ、震えているの?恵麻里ちゃん」
クリスが、蒼白になった恵麻里の顔をのぞき込むようにして言った。
「怖いことなんか何もないのよ。逆に、今よりももっと気持ちが良くなるの。フフ・・・バイオチップがどんなに素敵な魔法か、もうあなたにも分かっているでしょう?・・・」
「!・・・・」
クリスの視線が自分の股間に注がれていることに気付き、恵麻里は中腰の身体をさらに屈めるようにすくませた。
なだらかな下腹部の草むらには、心ならずも吹き出した淫らな汗が所々に滴のように溜まり、キラキラと輝いている。そしてその汗は、固く閉じ合わせた太股のあわい目に沿って粘い流れを作っているのだ。
恐ろしい悪魔の媚薬と人工細胞に脆くも打ち負かされてしまった自分の情けなさを思い知らされるようで、その部分を見られることは堪らない恥辱であった。
「フォフォ・・・どうじゃなクリス?お嬢ちゃん、すっかり大人しくなっとるじゃろう?」
と、アゲットが自慢げに肩をそびやかし、
「S・Tじゃろうが何じゃろうが、ワシの手術にかかればアッと言う間にこのザマさ。従順な奴隷が一丁上がりって訳じゃ」
「そうね、素直になったのは好都合だけれど・・・・」
微笑を浮かべたまま、クリスは恵麻里の顎を摘むように持って仰のかせた。
「でも、もうひと頑張り元気を出してもらわなくちゃ困るわ。・・・実はあなたに頼みたいことがあるの」
「た、頼み?・・・」
意外な申し出に、恵麻里はギョッとなってクリスを見上げる。
「そうよ、あなたにしか出来ないことなの。ぜひ引き受けて欲しいのよ」
「な、何をしろと言うの?・・・」
「簡単なことよ。私たちの仕事を・・・まあつまり非合法な仕事だけれど・・・ちょっと手伝って欲しいの」
「ば、馬鹿な!出来ないわそんなこと!」
驚き呆れ、叫ぶように恵麻里は言った。
「見損なわないで!あなた達の悪事の片棒をかつぐなんてとんでもないわッ!」
「見損なう?あなたこそ、自分のことを少し買いかぶりすぎてやしないかしら?」
クリスは嘲るように言い、
「今のあなたは正義を守るS・Tでも何でもないのよ。私たちに捕まって身体を作り替えられ、あそこからイヤらしい汁を垂れ流してる、単なるメスの獲物じゃない。せいぜい私たちのお先棒を持つのがお似合いだとは思わない?」
「な、何と言われても・・・」
恵麻里は後ろ手にされた上体を反らせ、気力を振り絞って相手を睨み付けた。
「それだけは絶対にお断りよ!例え殺されたって、言うことなんか聞くもんですかッ!」
クリスの下品な揶揄が、恵麻里のS・Tとしての最後の意地に、かえって火をつけたのである。
激しい怒りが肉体の疼きを一瞬忘れさせ、完全に萎えかけていた精神に新たな闘志が沸き起こってくるのを、恵麻里は感じた。
「フーン・・・」
困惑したようにかぶりを振り、クリスはアゲットに唇を突き出して見せた。
「『すっかり大人しくなった』が聞いて呆れるわ。この娘まだまだあきらめが悪いようよ」
「驚いたな。大した精神力じゃ・・・」
アゲットはばつが悪そうにうなずいて、
「バイオチップは完全に機能しておる。普通の女なら、立っているのがやっとで、とっくに抵抗する気力を無くしとるはずじゃが・・・。こりゃあこのお嬢ちゃん、本当に殺されたって言いなりにはならない覚悟らしいぞ」
「フン、だからといって引き下がるわけにいくものですか!」
クリスは腕を組み、眇になって恵麻里を見下ろした。
「どうやらこの娘には、自分の立場ってものをもう一度思い知らせてやる必要がありそうね。アゲット、あれをこの娘に見せてやって!」
「あれって・・・あれかい?」
アゲットは目を瞬き、意外そうにクリスを見た。
「そりゃワシは構わんが、お前さん、ありゃ後のお楽しみに取っておくと言っておったじゃないか」
「ええ、そのつもりだったけれど・・・」
クリスはうなずき、
「でも仕方がないじゃない。この娘は殺されるより辛い目に合わせないと、今すぐには言うことを聞きそうにないもの。・・・あまりのんびりとはしていられないのよ。急ぎの仕事を手伝ってもらいたいんだから」
「やれやれ、分かったよ・・・」
アゲットは鼻を鳴らすと、奥の壁のドアを開けて次の間へと姿を消した。
(・・・一体何をする気なの?また新たな媚薬や拷問具を持ち出すつもりかしら?・・・・)
恵麻里は想像し、恐怖に身を固くしたが、同時に不思議な、開き直りのような感情をも覚え始めていた。
そう・・・もしかすると、もうこの組織からは逃げられず、性の商品として売られてゆく運命も変えられないかもしれない。更なる肉体改造に狂わされ、再び泣いて許しを乞うこともあるだろう。
だがしかし、犯罪行為への協力だけは何としてでもはねつけてやればよいのだ!
それだけを貫き通せれば、S・Tとして生きてきた自分の、最後のプライドだけは守り抜くことが出来る!・・・・そう決意し、恵麻里はアゲットが消えた部屋のドアを睨み付けた。あの老医師が、その部屋から何を持ち出して来ようと、それがたとえ、更に強力なバイオチップであったとしても、出来得る限りの抵抗を試みるつもりだった。
「ほれクリス、受け取れ!」
ドアが開き、アゲットの右手がニュッと突き出された。
・・・が、その手に握られているのはバイオチップや媚薬ではなく、まして拷問具の類でもないらしい。
「?・・・・」
・・・それは明るい紫色に塗られた、ナイロン製らしいロープであった。一端がループ状になっていて、アゲットの手はその部分を握っている。
(この縄は何?・・・私をさらに縛り上げようというの?・・・・)
怪訝そうに見つめる恵麻里には構わず、クリスはアゲットの手からロープを受け取ると、それを強く手繰り寄せた。
「むぐぅううーッ!・・・・」
くぐもった叫び声が起こり、同時にドアが勢い良くこちらへ開かれた!
「あッ!・・・」
恵麻里は思わず驚愕の声を上げ、目を大きく見開く。
ロープの反対側には、恵麻里の両手を繋ぎ止めているのと同じ暗赤色の革バンドが付いていて、それが一人の人物の首をグルリと巻き取っていたのである!
まるで首輪をはめられた犬のように、ドアの中から引きずり出されてきたその人物とは・・・!
「し、静音ッ!!・・・」
悲愴な面持ちで、恵麻里は絞り出すような叫びを上げた。
・・・そう、そこに繋がれていたのは、彼女にとって一番の親友であり、かけがえのないパートナーでもある、静音・ブルックスその人の、惨たらしく全裸に剥かれた姿だったのである!・・・・